本のタイトル・作者
それでも食べて生きてゆく 東京の台所 [ 大平 一枝 ]
本の目次・あらすじ
はじめに
Ⅰ
酒と金魚
「これ、カンドー?」
「好き」のプロ電動車
二十一歳春。実母と縁を切る
愛のあと
台所クロニクル
Ⅱ
名建築は東京一不便な台所
本と恋と団地ごはん
八十六歳。終わらぬ問いかけ
「この家もらってね」。言い遺してあの女性は逝った
二二年目の本心
ピンクのワンルームでは母
[ 食のプロの台所 ]
①小堀紀代美さん 「おかゆ、梅干」。忘れられない献立帳
②白央篤司さん 市井の食描く、フードライターの現在地
収納宇宙Ⅰ
Ⅲ
旅立つ前の最後の一杯
料理写真をつまみに酒を飲む男
冷蔵庫、再び
ぐでぐで親子
料理をいっさいやめたふたり
台所小論
Ⅳ
自分の機嫌は自分でとる
離婚とコロナと餃子が変えた未来
バレンタインのリスタート
続・深夜の指定席
収納宇宙Ⅱ
おわりに
引用
何も失っていない人などいない。
みな何かを喪失し、それでも立ち上がり
今日もごはんを作っている。
感想
2023年019冊目
★★★★
朝日新聞デジタル『&w』連載「東京の台所」の書籍化。
前2作で登場した方のその後もあり、なかなか重いお話が多かった。
死別、離別。うしなわれたもの、そこなわれたもの、もう二度と戻らないもの。
テレビで「家付いてっていいですか」という番組がある。
それを見ていると、みんなすごい人生歩んでるんだなあと思う。
そして思う。
「家付いてっていいですか?」って訊かれたら、断るだろうな。
付いてこられちゃ困る。
だってそこには何一つ、語るべきことはないから。
子どもを子役にしているお母さんが、自分の人生を「ふつうに学校行って、就職して、結婚して、子どもが生まれて」と話して、「私の人生には何にもなくて、私の一生なんて1分くらいで全部語っちゃえるんですよ」というようなことを仰っていて、その自虐的な口調がとても衝撃だった。
だってそれはまさしく、私のことだと思った。
でも、その「何にもない」というなんてことは、ないんだよね。
この本を捲っていると、そう思う。
物事の大きさや小ささなんてものは、その人にとってだけの寸法だ。
傍から誰かがそれを判定するものではない。
自らを卑下するものではない。
「料理写真をつまみに酒を飲む男」で、ごはんを囲んで他愛ない話をできるから、その相手がいるから、自分みたいに生きるのが下手くそな人間でも生きていけるんだ、と言っている人がいた。
そして相手は返す。
自分一人ならペヤングでもいいんだ。相手がいるからご飯を作るんだ。
かなしみの大きさをした穴を、その重みをした寸分違わぬ石を、みなそれぞれに引き受けて生きていく。
落としながら、失くしながら、忘れながら、削りながら、下ろしながら。
その傍らに、誰かがいてくれたなら。
いっしょにごはんを、食べてくれたなら。
何も出来ないけれど、私がごはんを、作ってあげられたなら。
ーーー何もなかった私の人生。
そう言った彼女が送ってきた日々を、私は思った。
ちいさな女の子が、お母さんになるまでのたくさんの日々を。
いろんなことがあっただろう。
何が、と言われたら答えられないほど。
きっと彼女は、毎日台所に立ち、ごはんを作る。
NHKの「趣味どきっ!読書の森へ 本の道しるべ〜第6回 堀川理万子 画家・絵本作家」で、
堀川さんが高校の恩師で歌人である島田修三さんの歌を紹介していた。
鰤のアラ炊きつつ心ととのふる <本なら熟読 人には丁寧>
ままならぬ世にありて、手を動かして、祈るように何かを作る。
コトコトと煮付けながら、甘い香りを嗅ぎながら己に言い聞かせる。
洗い物をしながら涙が落ちる。啜り泣きは水音が隠してくれる。
生きている者は食わねばならぬ。
食うて、生きていかねばならぬ。
そうして生かさなければならぬ。
それでも食べて生きてゆく。
何をなくしても。誰をなくしても。
その強さと、残酷さ。
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