|
テーマ:お勧めの本(7277)
カテゴリ:読書
「わたしは、わたし」 (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)
作: ジャクリーン・ウッドソン 装画: 吉實 恵 訳: さくま ゆみこ 出版社: 鈴木出版 小学校高学年~中学生向き (出版社からの内容紹介) 主人公トスウィアの父さんは警察官。事件を目撃し、法廷で証言したために一家が生命の危険にさらされることになります。真実を証言する。あたりまえのことをしたはずなのに……。 「証人保護プログラム」という、法廷で重大な証言をした者が危害を加えられたり殺されたりしないように保護する制度によって、別人として別の場所にらすことになる家族の喪失と再生の物語。 友人に著者のジャクリーン・ウッドソンについて紹介され、地元の図書館にあったものを借りた。 昨年の読みおさめの本であり、今年のブログの「読書カテゴリー」の書初めとなる。 児童書なので、とてもわかりやすいし読みやすい。 この本の設定は、まさに現代のアメリカが内包することを実にわかりやすく明らかにしているように思う。 私は米国に住んだこともないし、親しい知人もいないのでその実態はわからないのだけれど、ニュース等で見るだけでも、この本に書かれているようなことが日常的に起きているのではないかと想像される。 主人公の少女の父が、警察官として、人間としての使命感と倫理観で勇気ある証言をしたことで、一家に危険が及ぶようになり、「証人保護プログラム」でそれまでの生活や経歴等を捨てて、新しい氏名で別人として見知らぬ土地で暮らすようになる。 実は私は、証人保護プログラムを知らなかったので、この本で初めてそのシステムを知った。 さすがアメリカというか、これがなくては正義や倫理観もぶっとぶような現実があるということなのか、このプログラムによって守られている人も多いのだろう。 10年前にこの本を読んでも、「ふーん、そんな仕組みがあるのか」と思っただけかもしれないが、今は「このプログラムは日本にも必要だ!」と感じてしまう。 このプログラムについての感想はさておき、この本のテーマは「人としてのアイデンティティの確立」の部分も大きいのではないだろうか。 人は生まれた時からの生得的な個性と家族から「その人らしさ」がスタートする。 親からもらった名前で自分を認識し、やがて親戚や友達、近所の人たちとの出会いと交流の中で、自分らしさを見つけてゆく。 その環境を一気に奪われ、それまで培ったもので残ったものは家族の絆だけだが、その家族もそれぞれの苦悩の中でバラバラになりそうになる。 想像を絶するような葛藤や悩みの連続の中で、この少女がどのように自分を再構築してゆくのか…。 彼女は、自分の得意なことで自信を少しずつ蓄え、やがて「わたしは、わたし」と前を向いて力強く走り出す。 読み終えてから色々なことに思いが巡ったのだが、ふと日本の「夫婦別姓」の問題が脳裏をよぎった。 従来の日本女性のほとんどは、結婚して夫の姓となってきた。 それを喜びと感じる人もいるだろうが、苦痛や葛藤を抱えてきた人は多い。 そしてまた、かつての男性は家を守るために「養子縁組」をした人も多いことを思い出した。 結婚により姓を変わることは多かったが、養子縁組で姓を変わり婿入りした家を守ることを命じられた男性たちは、どんなことを考えていたのだろうか。 女性は嫁いでも「里帰り」や出産・育児などで実家とのつながりは結構強いけれど、男性の場合はどうだったのだろう。 ちょっとこの本とは無関係なことに思いが巡ってしまった。 結局は、日本の嫁入り、婿入りは「家族制度維持」が目的であり、個人の気持ちはあまり尊重されていない。 話を戻そう。 人の幸せはまず「安全に生活できること」なので、現代日本でもやはり「証人保護プログラム」に近い、個人を守るためのもっと強い制度が必要になってきているように思う。 上のものに忖度ばかりしていて、しっかりと勇気ある指摘ができる土壌がなければ、今の政治の澱みや腐敗は進むばかりだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年01月03日 10時20分29秒
コメント(0) | コメントを書く
[読書] カテゴリの最新記事
|
|