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テーマ:楽天写真館(355749)
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代官山にある国の重要文化財である旧朝倉邸に行って来た。 都会の真ん中に有って華族でもなく財閥でもないから舞踏会室や大きな迎賓室やステンドガラスを持つ洋館ではないが巨大な木造家屋だ。東京都の区議の実力者で、明治から大正期のとんでもなく財力のある商家だったファミリーの邸宅だった。 財力に物言わせ豪華な木材を使った建物ではあるが、狩野派の絵師が描いた板戸も襖絵も決して華美ではない。むしろ色を抑えて渋ささえ感じる。昭和を生きて木造の家に住んできた年齢には、どこか懐かしく、ぬくもりを感じ、1度入ったら、畳に座ってまったりして去りがたく感じる家だ。 大きい木枠のガラス戸が都会の喧騒を防いでいる廊下にまったりと座っていたら、瞼がだんだん落ちて眠くなってきた。 「伯母様、お呼びになった?」 遠くから若い娘の明るく弾む声が聞こえてくる。 ゆっくり頭を上げると、歳の頃12、3の今にも折れてしまいそうな華奢な体をした少女が彼女付きの女中を伴ってこちらに廊下を渡って来る。 少女は私の脇をする抜けると、座敷の奥に座っている彼女の伯母の前に音もなく座った。 少女の母の一番上の姉で有る伯母は答える。 「お客様がいらしたから伯父様がお前にお茶を点てて欲しいそうだよ」 東京都の議員である本宅の叔父は長男の嫁や次男の嫁には声をかけないで、いつも姪にその役目を言いつけるのだった。 同じ敷地内に有る店の家族が住んでいる家から妙子を呼ぶのだった。 そういう時は決まってお客は政治家のはずだ。 階下の贅を尽くした客間の杉の間や庭から入る1階の茶室ではなく、階段によってほかの部屋と隔離された2階の水屋と背中合わせになった4畳半を密談のために選ぶ。 何時の世も政治は密室で・・・。 呼ばれた妙子はちゃんと心得ていて、すでにいつものように外出着である洋服から振袖に着替えてきたのであった。 水屋で女中とお茶道具をいそいそと準備する彼女は、伯父がこの家でたった一人の女の子で有る自分をかわいがって茶事に指名してくれる事がうれしいのである。 白地の綸子に青い波模様の斬新な、そして高価な振袖の衣擦れの音がする。 がたがたと風が渡りガラス戸が静かに揺れる音がする。 私はふと我に返ってあたりを見回す。 妙子さんは何処に行った? うたかたの夢の時間。 *************** ちょっと物語で遊んでみました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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