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テーマ:楽天写真館(355749)
カテゴリ:日本語で話そう
ウサギが中学校の頃、国語の時間の事。 それまで教科書を手に開いて、古典の解説をしていた先生が、突然本を閉じ、休憩するように深く息をついてから、教科と全く違う話を始めた。 「3、4年前。授業に向かおうと廊下を歩いていたら、廊下で友達と話していた女の子の言葉が耳に入った。その子は話の中であたくしと自分のことを呼んでいたんだ。その響きがまるでそよ風がぼくの髪を揺すって通り過ぎたみたいだった。」 その時の授業内容は覚えていない。先生のその言葉だけ覚えている。 ウサギの子供が小学校に上がると、暇な昼間の時間を使ってボランティアに出た。 特別養護老人ホームでお手伝い。 きちんと訓練を受けたプロではないから、出来ることは限られている。 マイクロバスで社会参加のために時々街に買い物に出たり、お花見に行く介助をした。目の見えない人の手を引き、車いすの人の介助をした。 月1.2回の生け花練習の手助け。(まあ、講師の免除は持っているけど、そんなものは関係ない)目の見えないお年寄りに、花の名前を教え、そっと手を取り花の長さを確認させ、剣山の位置と教える。もちろん最後に出来上がった生け花の姿も伝える。 目の見えない人が多かったから、バスの窓から見える海の色、空の色、風の色を伝えるのは形容詞の語彙数が少ない私には意外と難しかった。 枝についた花の数を伝えるのは簡単だったが、その花がどんな表情をしているかを伝えるのはかなり難しかった。今だってこんな短い文章を綴るのさえうまく表現できないのに。 銀行の出張手続きの介助なんていうのも有った。 或る時、それぞれ分かれてベットのそばで話し相手をするというのを頼まれたことが有る。 私が話したのは70を少し過ぎた頃だろうか、白髪の品のよさそうなお婆さんだ。 物静かに目が見えないけれど本が好きだった時の話をしている時ふと言った。 「あたくしはね、編み物が得意なの」 じっと見えない眼を見つめて話を聞いていた私の耳元を、開け放たれた窓の外の海から一陣のそよ風がつーっと吹き抜けて行った。 どうかして、満員の電車の中などで「あたくしは」という声が聞こえると、ふいっと周りを見回して、年の頃15歳ぐらいのセーラー服の少女かあるいは白い髪の優しい顔をした目の見えないご婦人を探してしまうことが有る。 ちょっと前、駅で見つけた虫たち。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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