海に咲く花(三) 41
ぼくは、もう、イケと友だちになれないのかもしれないと、思う時がある。例えば、今みたいな時。 イケは、ぼくじゃなくても、仲間がいる。でも、ぼくには、イケ以外、いない。誰か他に友だちを作る気も、ぼくにはない。 ぼくは、イケを仲間から引き離したいと、ずっと思ってきた。でも、それって、無理なのかもしれない。イケが仲間の中で、すっぽりと守られているから。イケと友だちでいるには、ぼくがワルの仲間になればいいのだろうか。でも、ぼくは、ならない。「イケ。ぼくは、どうして信用してもらえないッ?」 イケは、ちょっと顔をしかめた。「ルイ。お前は、帰って行くんだろッ?こっから、いなくなってしまうんだろ?いなくなるのは、お袋と兄貴だけでいいんだよ。でも、お前だって、いなくなるんだ。折角、友だちになったって、帰ってしまうんだ。だから信用できねえ」 イケはそう言った。ああ、そうだったのかと、ぼくは思った。「ぼくは、帰るつもりないよッ」「嘘つけえー。もうすぐ帰るって聞いたぞ。信用していいのかよォ?信用して、いいんだなッ?」「いいよ。ぼく、帰る所。本当はここしかないんだ。母さんとは、血がつながって」 ぼくは、それ以上言えなかった。例え、イケにでも。「何だよォ。はっきり言えよ」「ぼく、帰らないってことだよ。ずーっと、ここで暮らすってことだよ」「母ちゃんが、どうしたって?」「どうもしない。ぼくがイケを信用するようになったら、話すよ」「ルイ、お前。さっき、オレを信用してるって言ったろ?」「信用してるけど、全面的にじゃないから」「全面的?お前はめんどくせえ奴だな、まったくよォ」 そう言いながらイケの顔は、何だかスカッとしていた。 ぼくとイケは、それからは、てんこ森でいつまでも話した。図書室で、時間を忘れて本を読んだ。岩花の方の、海の草原でボールを蹴って遊んだ。「お前、絶対帰るなよ、な!」 ボールを蹴り返しながら、イケは、時々そう言った。「決まってるじゃん」 ぼくは、そう答えながら、もう、帰らないと心を固めていった。 ぼくたちの友情は、がっちりと組まれていった。でも、そのことでイケに、やがて信じられないような事件が起こることなど、ぼくたちには想像もできなかった。 第三章終了