カテゴリ:哲学・思想
岡本裕一朗「いま世界の哲学者が考えていること」 岡本裕一朗「いま世界の哲学者が考えていること」 20世紀後半に起こった、人類史を決定的に展開させた2つの技術的な変化・・ それは、BT(バイオテクノロジー)革命とIT革命である。 まずは、IT革命についての考察から。 「スマートフォンの存在論」・・ かつてマーシャル・マクルーハンは「メディア論」において、 書物の時代が終わり、映像や音声の時代になり、「書くことの時代」は終わった、といった。 しかし、マウリツィオ・フェラーリスは、このマクルーハンの規定に意を唱え、 「ドキュメント性」の概念を唱える。 現代はむしろ、「書くことのブームへと向かっている」と考える。 ≪「少しずつ、私たちは話すのをやめ、書き始めた。 今や一日中書いている。」≫ 「ドキュメント性」の特徴には、以下の3つある。 1.公共的なアクセス可能性 2.消滅せずに生き残ること 3.コピーを生み出せること 「アラブの春」は、スマホで撮られた映像が全世界に拡散したことによって実現した。 つまり、「IT革命が民主化を可能にした」ともみることができる。 しかし、SNSは民主化のツールとだけみることはできない。 民主化運動の中で撮影された映像は、同時に「監視の手段としても利用される」。 私たちが日常的に利用している、各種カードやAmazon、Facebook、Googleなどの利用履歴は、 日々、蓄積していく。 その結果、「スーパー・パノプティコン」(ジェレミー・ベンサムが考案した 監獄「パノプティコン」(一望監視施設))が出現する。 かつての「パノプティコン」が、「監視する者」が向う側に控えており、 「監視される者」は、個人的に特定され、その情報が蓄積された。 それに対し、現代のデジタルな監視では、「監視される者」が誰であるかは問題にならず、 「監視はいわば自動的に行われていく」。 すなわち、私たちは「ITが生み出した自動監視社会」を生きることになる。 人工知能が人類にもたらすものは何か? チューリング・テスト・・人工知能が、人間のような知性(知能)を持っているか否かの判定を行う。 しかし、チューリング・テストを超えても、人工知能には以下の課題がある。 1つは、ジョン・サールの思考実験「中国語の部屋」。 チューリング・テストは、問いの中身を理解しないまま、用意されたルール・ブックを基に回答 するだけである。 だから、チューリング・テストが完全にクリアできたとしても、コンピュータが人間のように心を持ち、 理解することはできない。 もう1つは、ダニエル・デネットが思考実験「フレーム問題」。 人工知能が具体的な場面で行動を起こすときに、目的に関して関係のある結果と関係のない結果を、 ロボットが見分けることはできない。 ・・といいつつ、私たち自身、「フレーム問題」を解決してから、行動しているわけではない。 もっといい加減なもの((+_+)) レイ・カーツワイルは、「技術的特異点(シンギュラリティ)」という概念を提唱する。 2045年には、人工知能が人間の知能を超える。 その結果、アメリカの全雇用の47%がコンピュータによって失われる。 ただし、「技術的失業」が起こったのは、歴史的に今回が初めてではない。 19世紀初、「機械」によって、大量の失業が発生した。 しかし、かつては「ルーティンな仕事」が奪われたのに対し、 今回は、ホワイトカラーや医者・教師などにまで及ぶ。 さらに、IoT(モノのインターネット)の導入により、「自律型の人工知能」は浸透する。 その動向は、近代社会の未来に対して、アドルノとホルクハイマーが「啓蒙の弁証法」と名づけた 世界が出現するのではないか。 「何故に人類は、真に人間的な状態に踏み入っていく代わりに、 一種の新しい野蛮状態へと落ち込んでいくのか。」 合理的な「啓蒙」が、やがて自分自身を否定するようになり、 「反・啓蒙」である神話や暴力へと転化する。 そんな世界が、「技術的特異点(シンギュラリティ)」の前後に出現するかもしれない(>_<) <目次> 第1章 世界の哲学者は今、何を考えているのか ・ポストモダン以後、哲学はどこへ向かうのか ・「真理」はどこにも存在しない ・人間消滅以後の世界をどう理解するのか ・道徳を脳科学によって説明する 第2章 IT革命は人類に何をもたらすのか ・人類史を変える二つの革命 ・スマートフォンの存在論 ・シノプティコン――多数による少数の監視 ・ビッグデータと人工知能ルネサンス ・人工知能によって啓蒙される人類? 第3章 バイオテクノロジーは「人間」をどこに導くのか ・「ポストヒューマン」誕生への道 ・人間のゲノム編集はなにを意味するのか ・クローン人間の哲学 ・不老不死になることは幸せなのか ・犯罪者には道徳ピルを飲ませる? ・ 第4章 資本主義は21世紀でも通用するのか ・近代が終わっても資本主義は終わらない? ・格差は本当に悪なのか ・自由主義のパラドックス ・フィンテック革命と金融資本主義の未来 ・グローバリゼーションのトリレンマ 第5章 人類が宗教を捨てることはありえないのか ・多文化主義から宗教的転回へ ・多文化主義モデルか、社会統合モデルか ・宗教を科学的に理解する? ・グールドの相互非干渉の原理 ・創造説とネオ無神論 第6章 人類は地球を守らなくてはいけないのか ・経済活動と環境保護は対立しない? ・環境プラグマティズムは何を主張しているのか ・地球温暖化対策の優先順位は? ・終末論を超えて お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.01.03 19:38:29
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