町から市になるメリットは? (愛知県東浦町人口水増し事件)
先日、愛知県東浦町で市になるために町の人口を水増ししたことがニュースになりました。人口水増しで前副町長逮捕 市政移行目指した愛知・東浦町(産経ニュース:2013.2.22)※末尾に記事添付市になる要件に人口5万人以上というものがあります。愛知県東浦町では2011年2月の国勢調査速報値で人口5万80人とされていましたが、その数値は調査票を改ざんした結果であって、水増し分の調査票は、本人に無断で名前や住所などが書き込まれた疑いが強いようです。同年10月の確定値では280人少ない4万9800人となり市への移行は見送られました。市になるために、人口水増しなんて驚きですが、報道ではそこまでして市になるメリットがあまり見えてこないので調べてみました。まずは、人口を水増ししてしまった東浦町の資料から。「市へ移行すると何がいいの?」(愛知県東浦町:広報ひがしうら)資料内のメリットをまとめるとこんな感じ。1 市になれば地方分権における権限移譲の受け皿となれ、住民のニーズに答えやすくなる2 町村会ではなく、より存在感のある市長会の一員となれる3 「市」というイメージアップで企業や若者を呼び込みやすくなる1については思うところがあるので、後述します。全体としてはなるほどと思えるものですが、具体的なメリットとなると分かりにくいのが正直なところです。あまり市になる決定的なメリットはないのかもしれません。他にも資料を探していたら同じ愛知県のみよし市の資料がよくまとまっているので紹介します。これを見ると結構イメージができます。一緒に考えよう!「町制」と「市制」(愛知県みよし市:広報みよし)第一回 「市制の要件」第二回 「市と町の違いについて1」第三回 「市と町の違いについて2」第四回 「国政調査と町の歩み」第五回 「市と町の違いについて3」町から市になると、福祉事務所が必置になったり、選挙制度や議会についても違いがあるようです。中でも、福祉事務所設置や生活保護費の経費負担など、町の時代には県が実施してくれていたものが、市になると自身でやらなくてはならないというのは大きな違いと言えます。詳しくは資料を読んでいただきたいのですが、調べた感触としては町から市になって劇的に変わることはありません。正直「町」と「市」という名称にあるイメージの差が市民にとっては一番大きいのではないでしょうか。制度面では何度か出てきたように町では出来ないけれど、市なら出来るという権限の幅の違いが大きいと思います。今後地方分権が進むなかで、市だけに移譲される権限があるため、その差が広がってくるのも確かでしょう。しかし、(現状の市移行のメリットを否定するものではありませんが)私は権限移譲の考え方に見直しが必要であると思っています。町と市というだけで権限移譲の可否を区別するのは実状に合っていないからです。というのも、人口規模だけを考えてみても必ずしも「町<市」となっていないからです。人口5万人を割っている市はたくさんあります。例えば静岡県の人口を例にとれば(23市12町 2012年4月1日時点 総人口3,816,516 )熱海市 42,289人 菊川市 45,607人伊豆市 37,491人御前崎市 36,925人下田市 27,093人 函南町 38,839人長泉町 37,626人 清水町 31,276人 吉田町 28,284人 全23市中5市が人口5万人以下。人口5万人以上6万人未満の市が他に4市あります。注目すべきなのが、伊豆市、御前崎市、下田市の人口は函南町と長泉町より少なく、下田市にあっては上記の全ての町よりも人口が少ないことです。人口規模では必ずしも「町<市」ではありませんし、事業所や施設の数を含めればさらに状況は変わってきます。このことを考慮せずに、現在のように権限移譲の線引きを市と町という違いだけで行えば、そのしわ寄せは住民に跳ね返ってくるので注意が必要です。まとめると、現状の制度下では権限の幅で町と市の違いが表れるが、制度が改正され実態で判断されるようになれば、町と市の差は名称のイメージということになりそうです。市と言っても人口370万人の横浜市から人口4000人の歌志内市(北海道)までありますから一律に論じるには無理がありそうです。『人口水増しで前副町長逮捕 市政移行目指した愛知・東浦町(産経ニュース:2013.2.22』市制移行を目指していた愛知県東浦町が2010年の国勢調査で人口を水増ししたと指摘された問題で、同県警は22日、調査票を改ざんしたとして、統計法違反の疑いで、東浦町の前副町長、荻須英夫容疑者(63)らを逮捕した。 10年12月に人口が水増しされたとする匿名文書が総務省統計局に届き、統計局が東浦町に調査を要請。町の人口は、10年10月の調査を反映させた11年2月の国勢調査速報値で5万80人とされたが、11年10月の確定値では280人少ない4万9800人に下方修正された。 市制移行条件の人口5万人に届かず、町は移行を見送った。関係者は意図的な水増しを否定したが、県警は約2年分の関係書類の提出を受け、町幹部らから事情を聴くなど捜査を進めていた。 昨年2月に問題が発覚。町が総務省に提出した報告書によると、同省が「事務的ミスでは説明できない」として実態解明を求めた96人のうち74人について必要な居住確認をせず、住民基本台帳や外国人登録原票と照合しただけで追記していたことが判明した。