カテゴリ:外国史
フランス革命 さて、国王一行です。 道中を護衛するブイエ将軍は、若いショワズール公を連絡係に任命し、パリの国王の下に派遣していました。そのショワズール公は当日王妃の宝石類を持った王妃付きの美容師(当時は調髪師と呼ばれていました)と共に先発します。午後2時頃にシャロンに近くの街道で待ち合わせる約束でした。 律儀者ですが、あまり機転の利くタイプではなかったショワズール公は、部下を率いて、シャロン近くのポン・ドゥ・ソム・ヴェールで、国王一行の馬車を待ちました。しかし、2時頃到着予定の馬車は、いっこうに姿を見せませんでした。40名の美装した軽騎兵の集団が、村人の注意と関心を惹かないはずがありません。村人の好奇心はやがて疑心に変わります。午後5時まで待ったショワズール公は、パリの方向へ偵察隊を出すこともせずに、予定が変わったものと一人画点して、次ぎの地点に待つ分隊にまで、王家が来ないと連絡を出し、人目を避けるために森の中の迂回路を通って引きあげてしまいます。 何故、王家の到着は遅れたのか。これは国王一行の情勢判断の甘さ、パリさえ抜ければ何とかなると思い込んでいた油断が原因だったと指摘せざるをえません。さすがに百戦練磨のブイエ将軍は、スピードの出る軽い馬車と練達した御者の同行を勧告していたのですが、荷物を満載した大型馬車が使われ、さらに王妃の要望で、御者の変わりに侍女が2人も乗り込むことになったのです。その上、フェルセンもまた途中までしか、同行しなかったのです。専門の御者のいない道中ですから、宿駅での馬の交換にも手間取ります。時間がかかるわけなのです。 その上、パリを離れると、狩猟好きの国王は別人のように元気になります。彼は逃避行であることを忘れたように、度々子ども達を馬車から降ろして、シャンパーニュの野で遊ばせます。約束のポン・ドゥ・ソム・ヴェールに着いたのは、午後6時半。ショワズール公の部隊が立ち去った1時間半後でした。当然部隊は見当たりません。にわかに不安を覚えた一行は、次ぎの分隊が待つサント・ムヌーに向います。そこの部隊も解散した後でしたが、大尉が1名残っていました。来ないと連絡を受けて部隊が解散した後ですから、事態に呆然となった大尉は、「出発なさってください。急いでです。すぐに出発なさらないと…」と話したといいます。急いで馬車を替えて出発する一行の慌しい姿に村人が疑念を持ち、村役場に知らせます。役場は一行の後を追わせると同時に、村人を非常召集しました。 89年8月の封建制廃棄の宣言から2年近くが経過し、封建地代も無償で廃棄されたと思っていたのに、そうではなかったことを知った地方の農民達は、あらためて領主達の狡猾さに憤りを感じ、各地で騒然たる空気が広がっていたのです。当然貴族の陰謀への警戒感も強く、外国へ亡命しようとする貴族達にも厳しい目を向けていたのです。ですから、非常召集への反応も大変素早いものでした。 サント・ムヌーの次ぎの宿駅クレルモンを、王家の馬車は無事に通過します。この地点の分隊も解散していました。村人の中には馬車を取り押さえようという声もあったのですが、誰も自分からは動かなかったのです。次ぎの宿駅が運命のヴァレンヌです。ヴァレンヌを出ると、ブイエ軍の集結地まで宿駅はありません。王家の安全地帯まであと僅かだったのです。ベルリン馬車は10時半頃ヴァレンヌに着きます。替え馬を準備した分隊は、町の出口の宿屋に待機していました。王家の一行は町の入口で馬車を留め、護衛の2人は暗闇の中を約30分近くも替え馬を探して、むなしく時間を浪費します。この間、ヴァレンヌについたサント・ムヌーの村民は、王家の一行を尻目に町に入り、まだ開いていた橋のたもとの居酒屋に飛び込み、事情を説明しました。たちまち酒樽や荷車でバリケードが作られ、橋は通行止めになります。警鐘が打たれて、国民衛兵が召集されます。 やがて、替え馬を諦めたベルリン馬車がやってきます。村総代ソースは、「夜も更けているから」との口実で、一行を自宅に案内します。かつてヴェルサイユにいたことがある、判事が呼ばれ、国王を見かけると、「これはこれは、国王陛下」と恭しく跪きます。その様子に国王は、ついに隠しきれずに身分を明かしてしまったのです。 森の中の迂回路に入って道に迷ったショワズール公の分隊が、ヴァレンヌに到着したのは、こんな時でした。馬で脱出することを進められた国王は、王妃や子ども達を慮って、この申し出を断ります。ブイエ将軍が救援にくることを信じていたのかもしれません。ヴァレンヌからは、国王発見の至急報が、パリへ届けられます。国外脱出を覚悟していた国民議会は、吉報にどよめきます。朝6時、「王家を連れ戻せ」という指令が届きます。 6月22日朝7時半、ベルリン馬車は村人達に囲まれて、パリへ向けて出発します。ブイエ将軍が到着したのは、その2時間後のことでした。 続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.07.30 21:01:49
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