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HANNAのファンタジー気分

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September 4, 2008
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カテゴリ:気になる絵本

 二学期が始まったので、読み聞かせの本をさがしに図書館へ行きました。そしたら、ふと見つけたのがこれ。作者12歳の時の物語に、画家の父が絵をつけた作品だということです。

 表紙の、ヘタウマみたいな大仏さんの顔が、まず、いいですねえ。最初から最後まで、ほとんどずっとこの上品なお顔のままです、大仏さん。これは、与謝野晶子が「美男におわす」と詠んだ、あの鎌倉の大仏さんの物語です。

 夏の暑さの中、じっと座り続ける大仏さん。見物人にほめられても、たたかれても、

  ・・・だいぶつさんは、ただ、じっとすわっていました。
               ――岡本黄子・岡本信治郎『だいぶつさん海へいく』

 そうじがかりのおじさんから初めて「海」のことを聞いた時も、大仏さんはだまってじっとすわっていました。大仏なんですから、動いたことなどない、そりゃそうですよね。
 でも、大仏さんの心の中に海へのあこがれが生まれて、夏から秋へ、それはだんだん大きくなったらしく、とうとう独り言となってあふれます。

  「ああ、海へいきたいなあ」

 このセリフを言っている大仏さんは、やっぱり上品なお顔のまんまです。「立ち上がって海へお行きよ」とコオロギに言われても、やっぱりだまってすわっていました。
 ・・・何だか、こういうタイプの人、いますよねえ。いつもまじめで落ち着いて、でしゃばらず、さわがず、平静な顔をくずさない人。目立つ行動はしないのになぜか存在感があって、みんなを安心させてくれるような人。

 そんな大仏さんの内に秘めた情熱は、ある日またとうとうあふれ出します。大仏さん、この時だけは顔を真っ赤にしてふんばって、地響きをたてて立ち上がります。そして、一歩一歩、海へ向かいます!

 鎌倉の大仏さんて、海に近いんですよね。たまたま去年家族で旅行して拝んできましたが、もとは建物(大仏殿)の中にあったのに、嵐で高波が押し寄せた時に木造の大仏殿だけが流されてしまい、嵐のあと大仏さまだけ残ったんだそうです。
 ともかく、大仏さんは一歩一歩、大きな足で歩いてゆきます。

  「だいぶつさんが、海にいくぞー!」

 日頃大仏さんを見上げていた何万人の人々が、大仏さんのあとに続きます。
 何万人の人々が!
 大仏さんが立ち上がって歩くというのは、それほどすごいことなのです。大仏さんの静かで強いあこがれと決意とが、町中の人を動かし、みんなだまってついてゆくのです。

 大仏さんと人々は、やがて海辺に着きます。みんなでじっと海を見つめます。横長のページの、見開き全部を使った海と大仏と人々の絵。海は大仏さんよりも、大きくはてしないです。
 もしこれが『冒険者たち』のガンバだったら、「これが海か! これも全部海か!」と叫ぶシーンです。

 大仏が立ち上がって歩いて海を見に行く。ただそれだけのストーリーなのに、何とも力強く、感動させられます。変わらぬ日常の殻をやぶって立ち上がり、あこがれに向かって一歩一歩歩き出す、それは誰にとってもすごいパワーと努力が必要なのです。それは周囲の人々をも巻き込みます。そして、夢を実現した時の静かな感動もまた、周りの人々にも伝わるのでしょう。

 もちろん12歳の時の作者は、そんな意図を持ってお話を作ったのではないでしょう。でも、大仏が歩くというのを、ただの奇抜な発想としてではなく、こんなにまじめで純粋なストーリーにしたところが、すばらしいです。
 私も大仏さんと一緒に、由比ヶ浜で海を見たくなりました。





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Last updated  September 4, 2008 11:40:19 PM
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由比ヶ浜   ray* さん
HANNAさんの解説だけで引き込まれてしまいました^^
話が簡単でも感動する内容の本は、たくさんありますね。
私が鎌倉の大仏さんを見たのは、あまりに昔すぎて
お顔は思い出せません。
鎌倉に行くと必ず由比ヶ浜には行ってましたが
確かに大仏さんが歩くと、すぐにでも海に出ちゃいますよね。
物語と現実がかぶってしまいました(笑)
(September 5, 2008 10:10:16 AM)

インパクト!   CRALA さん
表紙の大仏さんの御顔、いいです!
なんかすっごく強烈なインパクトあります。
この絵だけで手に取ってしまいそうです。
すごく読んでみたいですー。早速探してみます。 (September 5, 2008 09:17:43 PM)

青空の下に座ってらっしゃるから・・・   yhanna さん
ray*さま

関西に住んでいると東大寺の大仏のほうがおなじみなんですが、いつもうすぐらい建物の中にいて、しかもうんと見上げないと顔は見えない・・・
それにくらべて、鎌倉の大仏さんは、少し離れたところから見ると全体像やお顔がよく分かります。だから、初めて見ても親しみやすい感じ。

ほんとに、立ち上がるかどうか、ちょっと見に行きたい気分ですねv (September 5, 2008 09:27:35 PM)

ほんとにこんな顔の人が   yhanna さん
CRALAさま

絶対いそうな気がします。点目で、いかにも日本人て感じのはば広の鼻で、上品な口で・・・
かすかにほっぺたを染めて?いるあたりなんか、何とも味があります。

比較的新しい絵本ですから、きっと図書館にありますよ!  (September 5, 2008 09:32:04 PM)

なつかしくて・・・   ろーれんす さん
幼稚園の頃に読んだ記憶があります
子供心にすごく印象に残っている絵本で・・・今日、たまたまお客様と話をしていて思い出しました
で、ネットで検索してみてびっくり!!
鎌倉の大仏様のお話だったんですね?
幼稚園の頃、奈良に住んでいたのでてっきり奈良の大仏様の話だと思い込んでいました(笑) (September 15, 2016 07:40:05 AM)

Re:なつかしくて・・・   yhanna さん
ろーれんすさま

ようこそご訪問&コメントありがとうございます!

幼稚園のころ読まれたということですが、アンパンマンとか、世間にあふれているたくさんのキャラクターやお話とともに、この大仏さんが心に残っているって、やっぱりすごくインパクトのある絵本なんですねえ。

奈良の大仏さんも良いけれど、青空の下に座っておられる鎌倉の大仏さんならではのお話ですよね。

私も手元に持っていないので、また読み返したくなりました。

(September 16, 2016 11:13:53 PM)


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