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2005年10月23日
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カテゴリ:毎日の記録

「桜の下に…」

呼ばれた気がしてふと見やると
どこか遠いところを見つめたまま、ポロリと言った。

うまく聞き取れなくて
「なんでしょう?桜がどうかしましたか」
聞き返してみたが
自分がこぼしてしまった言葉にあわてたようにこちらを見ると
唐突に違う話を始めた。

それで私はもう聞けなくなってしまう。

その後、何度も聞いてみたかったが遂にその機会は訪れず
夫は不思議な波乱万丈に満ちた生涯を、終えた。

烈しい一年だった。
自分にこんなに沢山の感情があったのかと思うほど翻弄された日々だった。
それでも。
忘れたくない日々でもあった。

噂には聞いていた。
新選組の鬼副長。苛烈で冷酷。
けれど私が見たのは…

噂とはこれほど当てにならないものだと思い知った。
確かに烈しいヒトであった。
部下ではあったが私に気を使うことなんて無かったんじゃないか
それほどまでに己を信じてもいた

接点など、戦しかなかったのに。
あれはいつのことだったか
おもわずの平和な日々にふと春の訪れを感じるような暖かい日だった
どうしてそんなことになったのか覚えていないが私は彼と二人で桜を見ていた。
たわいの無い話をしながら、咲きはじめた桜に眼を細める彼を見ていた。
あれほど焦がれた春は、戦の始まりでもあったのだ
彼は見たことも無いほど上機嫌だった。

そのめったにない上機嫌にだまされて私も浮かれていたのだろうか
拉致も無い話を延々と話し、彼は黙って聞いていた。


「この桜が満開になったら…」

その後の会話はよく覚えていない。満開になったらなんだと言ったのか
それでも嬉しそうにそういった彼を鮮烈に覚えていた。

あれは、桜とともに逝ける自分が嬉しかったのだろうか

彼が逝ってからあわただしく日々が過ぎ、降伏、謹慎、獄中と身の回りは忙しかったが
獄中にあってはやはり思い出すのは戦の日々だった
その中でも戦う彼はいつも思い出せたが、ともに桜を見たことなど全く思い出すことも無かった。

それが、ふいに。
あれから何年もたっているというのに。
思い出すものなど何もないというのに。
桜が、あんまりキレイに咲き誇るせいか

今なら。
桜の下に眠る彼に会えるような気がした。

思わずこぼしてしまった心のうちをのぞかれる前に話をそらした。


夫は明るい人だった。
誰もが絶望するような状況でものんきに笑っていられるような、前しか見ない人だった。

江戸を脱して徳川の義をつらぬく。

と言ったときも不思議と悲壮感は無く、ちょっとそこまで出かけるような軽い態度で出かけていった。
「大丈夫、きっと帰ってくるから」
そういい残して。

たしかにその言葉通りに無事に帰ってきた。
賊将と呼ばれ、獄につながれたりもしたけれどあの明るさは失わず、獄中も楽しんでしまう人のままだった。

江戸を脱してからの事は何でも話してくれたし、日記にも書きとめていたから私もかなり詳しく知っている。
蝦夷の冬がどれだけつらかったかも、戦で兵を失うつらさも、ぼろぼろに負けて力尽きかけたときに見た咲き誇る花の美しさも。
聞けば何でも教えてくれた。夫も何かを確かめるように熱心に話してくれた。

けれど、私は気付いてしまった。
時々夫が違う世界を見つめている事を。
泣き出しそうな瞳をして夫にしか見えない何かを見つめている。
大切な何かを必死に守ろうとしているように見えて、それを守れなかった痛みを耐えるような、そんな瞳をよくするようになった。

そして、図らずもこぼれてしまった心は私の胸の奥深く、静にいつまでも留まっていた。

夫がその生涯を終えようとしていたある日。

とりとめのないことを話しているうちに、唐突に言われた

「桜の下に、埋めてくれないか? 」

いつか聞きそびれたあの言葉の続きを、ようやく聞けた
私は黙って微笑んで見せた
夫は安心したように目を閉じそれ以来二度とそのことについて触れなかったが私にはわかった

夫は、夫にしか見えない世界で、誰かに会いたがっているのだということが。


「父上は桜がお好きだったんですか?聞いたこと無いですよ」
息子が不思議そうに聞いてくる

そうね、私も聞いたこと無かったわ…だけど。

「わざわざこんな桜の大木の下にお墓を作らなくったって。」

そうね、手入れも大変ね…それでも。

どうしても桜の下に眠らせてあげたかった
それは最後まで決して教えてはくれなかった、あの瞳の向こうの本気の願いとわかっていたから

だいいち、桜の季節はとうに終わってしまいましたよ。

不満そうになおも言ってくる息子にそれでも何も応えずにいると
あきらめたのかそれ以上聞いてこなかった。

桜は来年、きっときれいに咲くでしょう
桜の想い出は
あなたが見つめるその世界では大切な何かがあるのでしょう?
貴方が見つめていたその世界で大切な人に会えましたか?

ざあっと風が吹いてこずえを鳴らす
夫の照れたような笑顔を思い出し思わず笑みがこぼれる
目を閉じると暖かいしずくが頬を伝わっていった





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最終更新日  2005年10月23日 19時12分07秒
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