オッペンハイマー
2024/05/10/金曜日/晴れ渡るはっきり言って、山崎賢人の陰陽師との選択で迷ったのだった。館内はほぼ満席。この映画館が満席に近いってハリーポッターシリーズ以来かも。驚き。アカデミー賞7部門受賞のきらびやかな覆いはあれど内容は原爆開発の技術者リーダー、理論物理学のオッペンハイマーの物語なのだから。オッペンハイマーは『ご冗談でしょう、ファインマンさん』で知った名前。だけど随分昔の読書なので私の彼へのイメージは原爆開発者として、科学に裏付けされた冷酷な人物、権威主義者 と勝手に虚飾されていた。記憶ってこんなものか。映画を通して見れば、年齢とともに他者に気をつかう繊細な人物だった。そして辛抱強い。当たり前か。コミュニストの元恋人の自殺を知った時に見せた、まるで天涯孤独者のごとき彼の嗚咽は何だろう。ヒロシマ、ナガサキの多くの市井の民の命をこれ以上無い苦しみで奪い去る武器開発の当事者としての嗚咽は無いのか、どうなんだ、と日本人である私は問いたくなる。時の大統領に、泣き虫坊やはもう連れて来るなみたいに吐き捨てられるシーン。これぞアメリカマチズモ漢の能天気なパペット、みたいな大統領。アメリカの観客席ではどう受け止められるのか。原爆実験成功のはしゃぎぶり。この先にヒロシマ、ナガサキの犠牲を知る私たちは科学の成果に、人類史上初めて拒絶した民族だ。そのはずだ。それがまあ、20110311の自爆なのだから。悲劇と皮肉は地球の核まで届く叫びとならん。科学が夢見たものが即、産業と結びつき金儲けに展開され、その端の端のすみっこの、残された甘味をチウチウし暮らしてる私のような人が、この場内にも99%。己の罪悪をひたひたと館外に出る。にもかかわらず五月の美しさを何としよう。フィルターを外すファインマンさんボンゴを叩くファインマンさん妙にそこだけ野生を覚え。