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弁護士YA日記

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日出町法律事務所
2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
2013.05.27
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カテゴリ:東日本大震災
続きです。
前の記事はこちら↓

http://plaza.rakuten.co.jp/yyy0801/diary/201305270000/

10時から17時までの相談会は、飛び込み予約もいれて6人の相談者の方のお話をお聞きした。一人一時間枠だが、時間いっぱいどころか時間超過する方が続出。賠償の問題だけではなく生活全般につき、悩みが余りにも深すぎるのだ。

有効な解決策を見いだせない相談も多く、帰ってきた今でも、一人一人のお顔が思い浮かび、胸を衝かれる想いだ。以下、相談者の特定につながらないよう、意図的に事案をシャッフルしつつ、どんな相談があったか、私がどんなことを感じたかを書いてみたい。

【先がない-社会的弱者の収容所】

今回、相談にいらした6人の方の年齢は、74歳、39歳、72歳、84歳、66歳、68歳。
39歳の方は、普段は遠方で暮らしておられるが、この仮設住宅に入居されている70代後半のお母様とおばさまを代理してのご相談だった。
つまり、いずれもご高齢の方ばかりだ。

84歳の男性は、予約時間の1時間も前に、杖にもたれかかるようにして足を運んで、相談会場である集会所に到着されたが、仮設住宅から集会所(おそらく数十メートルの距離)に来るまでに体力を使い果たしておられ、帰る気力がない。急遽、集会所備え付けのマッサージ椅子で休んでいただきながら順番を待っていただいた。富岡町にいた頃は、毎日、農作業に出ていらしたのだが、こちらに来てからは「田んぼも畑もないで」というわけで、部屋にこもりきり、運動もできないまま、一日中テレビを見て過ごされているという。

72歳の女性は、一昨日、数ヶ月に及ぶ大病の手術を終え、退院されてきたばかりという。薬の副作用ですっかり髪の毛が抜けてしまったという頭を柔らかなピンクのニット帽で包み、消え入るようなお声を、必死に絞り出されてお話しされている様子が痛々しい。

「帰ってきたら、こんなの届いていたの。開ける力もなくて。代わりに開けてください、書いて下さい。」とA4サイズの東京電力株式会社という文字が印字された分厚い封筒。不動産賠償の請求書だ。中身は、私も、事前に読んできているが、普段から文章を読むことに慣れている私でも、一読了解など不可能だった。ましてや故郷から遠く離れた慣れない仮設住宅で、心身を消耗しているお年寄りの方々にとっては、最早、紙でできた爆弾ではないだろうか。

74歳の男性は、老眼鏡を何種類も持ってこられて、相談中何度も掛け替えておられる。「いろんな文字の大きさがあるもんでね、細かい字はこっちじゃないと」とつぶやきながら、指し示していただく請求書には、色とりどりの付箋が沢山貼ってある。「分からないこと一杯あるもんで、東電に電話したんだけど、『お待ち下さい』『確認します』ばっかりで、はあ、ちっとも、進まねえだよ」とため息を連発される。

「何が不満かを特定することもできない」と憤る66歳の男性は、「仮設住宅は、強制収容所だ」と仰る。自分が住みたいといった訳でもない場所に、「富岡町出身」という共通項だけで場所を割り当てられ、いつまでいなければいけないのかも教えてもらえない。若者も子どももいない場所だ。不満を東電に電話したら、壁が薄くて隣から苦情が来た。怒りをぶつける自由すらない、人権がない、人間の尊厳がない、この状態で死ぬまで人を閉じ込めておくということは、ナチスの強制収容所と一緒ではないか・・・怒りと悲しみが止まらない。

今回の相談者の属性だけしか判断材料がないが、おそらく、富岡町の本来の年齢比よりも高齢者の割合は、かなり高いのではないだろうか。集会所の外でも、いわゆる若者や壮年の方はお見かけしなかった。

ご高齢ということは、それだけ病気を持っている方、杖をつくなどお身体が不自由な方の割合も高いのではないだろうか。

強制収容所、という響きはとても強烈だが、仮設住宅が、事実上、社会的弱者の収容所になってしまっていることは間違いないと思った。私は、静岡に避難されている方々のお話もお聞きしているが、ほぼお子さんが小さいとか、働き盛りでこちらに職を見つけたとかいう方ばかりで、年齢層がまったく違う。

先が見えないという話は、原発事故被害者から共通にお聞きする。
お年寄りの場合、先が見えないという以上に、物理的に「先がない」。第二の人生をどこかで過ごすことを望むべくもない年齢にさしかかっているのに、突然、安住の家を追い出されたら、人は何をよすがに生きてゆけばいいのだろうか。

賠償でいくばくかのお金をもらったところで、故郷で余生を過ごすという当たり前の生活を失った人々にとって、何の意味があるのだろう。ご相談をお受けしている間に、次第に心にひたひたと氷のように冷たい水がたまっていくような気がした。いつもずぶ濡れの心を抱えていらっしゃる方々の悲しみ、いかばかりか。

【応用問題ばかり-不動産賠償、財物賠償】

事前に相当予習はしていったものの、賠償の本丸、不動産賠償、家財賠償の難しさは、想像以上だった。

相続登記がされていないまま何代も前の方の名義になっている不動産、多くの未登記建物は、今回のご相談でも多数含まれていた。おそらく、そのような土地、建物は、富岡町に限らず、浜通り全域に点在していると思われる。
・・・一体、どう対処するのだろうか。行うべき膨大な手順が、職業柄、少しは分かるだけに(書く気力がない程、手間暇かかります)、気が遠くなって倒れそうになる。

それ以外にも、実態は知人間の売買だったが、諸事情で「賃貸借」の形式を取ったた物件や、離婚した夫婦の共有名義になったままの不動産等の相談もあり、その場で、一緒に悩みながら考える他ない。

家財の賠償に至っては、人によって大切にしているものが千差万別で、類型化自体困難だ。東電の基準では、家族の人数によって算出した一律の基準に、高額な家財につき立証があれば20万円の限度で出す(立証を求めておきながら上限を勝手に決めるのは、誰がどう考えても筋が通らないと思いますが)ということだが、「家財」にはどこまで含まれる?「立証」ってどうやってやるの?と個別に問われると、弁護士だってよく分からない問題が山積みだ。

母からの形見の着物がネズミの糞だらけ、大切にしていた毛皮のコート、破損しているわけではないけれど、二年も放置していたらかび臭くなってしまった、こんな相談にひとつひとつに「立証をどうするか」等と検討していたら、時間がいくらあっても足りない。

【迫りゆく時効の壁-ADRは夢物語】

相談を受けてつくづくしみじみ痛感したが、ADRの存在はほとんどまったく知られていない。東電のコールセンターに電話した、出向いた東電の職員に聞いて見た、そんな体験は相談者の方から数多くお聞きするのに、「ADR」という言葉は、相談者の方から出てきたことは一度もなかった。

私からご案内して、「そんな手段があるのですね、やってみたい」という話にはなるのだけれど、申立書を見て「これ、どうやって書けばいいのですか」となる。
東電の書式は確かに難しいけれど、まがりなりにもコールセンター、職員訪問などでサポートを受ける機会がある。ADRは、いかに書式を楽にしても、「一人で書かなければならない」という時点で不安が倍増する。

文字を読み慣れていない人にとっては、文書を読んで書かなくてはならないということ、それ自体がハードルなのだ。書式の問題ではない。

しかも「誰も周りでやっている人がいない」となれば、なおさらだ。せめて東電並に、弁護士がADR申立をサポートできるシステムがあればと願わずにいられない。

ADRが認知されていないということそれ自体も大きな問題だが、実は、消滅時効との関係で、更に深刻だ。現在、国会で審議中のいわゆる「時効特例法案」は、ADRの申立に時効の中断効を認めるという内容だ。問題の所在について、一番詳しいのは、下記、日弁連の意見書であるので、興味のある方は、ご覧下さい。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2013/130418.html


ADRが被害者に認知されて利用されている前提がまったくないのに、被害者の賠償請求を阻んでしまう可能性があるストッパーとしての機能を担わせるということが、現場の実態に反していることは明らかだ。ADRに期待するのは、現時点では、非現実的であり、夢物語でしかない。

ご紹介した日弁連意見書にある通り、時効については、特別の立法がなければ被害者救済はできないだろう。現場の実感から、全面的に賛同できる意見である。

・・・心が重くなった相談の体験、言葉にすることで更に重くなった感はあるが、それでも、多くの人に、被害の実態を知って欲しいと心から願う。

「急げ悲しみ 翼に変われ
 急げ傷跡 羅針盤になれ」
(中島みゆき、銀の龍の背に乗って)

私のちっぽけな悲しみが被害者のためにほんの少しでも役に立ちますように。





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Last updated  2013.05.28 14:41:13
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