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カテゴリ:東日本大震災
先日、高速道路で1時間という距離にある小さな会社にお邪魔した。
その会社からご依頼を受けている案件で、帳簿類を大量に拝見する必要があり、帳簿の内容を特定してお持ち頂くよりは、私が出向いた方が早いからだ。 会社の一角にある机をお借りして、帳簿類を確認し、持ち込んだノートパソコンで打ち込み作業。現場に来るのはいいものだ、その案件に集中できるし、分からない点は、すぐにお聞きできるし、なんて思いながら、エクセル表とにらめっこしていると、「先生、これでもつまみながら、どうぞ」と小さな陶器のお皿がすっと目の前に差し出された。 中には、サンゴと見間違うような真っ赤なツヤツヤしたミニトマトが5つ。まあ、美味しそう!と思わず、声をあげると、 「よく見るとね、どれも割れちゃっているんですよ。樹でしっかり熟しているから、もぎ取った途端、ぴしって割けちゃうの。でも、割けちゃう位、熟れているものの味は最高ですよ。もぎたての贅沢、どうぞ」 と、奥様がいたずらっぽい笑顔で勧めて下さる。 へえ、確かにどれも割れているなあ、なんて思いつつ、勧められるままに一つ口に運んだ瞬間、トマトが口の中で弾けた。 わあ、あったかい!そうか、さっきまで、真夏の太陽の下にいたんだものね。 じゅわーっと口に広がるトマトの果汁、何という濃厚な味。甘い、という形容詞だけでは言い表せない滋養に満ち溢れた味わい。太陽の味がする! スーパーに並んでいる、割れ目がまったくないつるんとした、ひんやりしたお行儀の良いトマトと同じ野菜とは思えない。割れているあったかいトマトがこんな美味しいなんて、初めて知った。熟しているって、こういうことなんだー。 美味しい、美味しい、と大感動して、あっという間に完食してしまった。奥様も、「でしょう?これ食べちゃうと、スーパーでトマト買えなくなります」と嬉しそうにニコニコしていらっしゃる。 帰り道、本当に美味しかった、と思い返しながら(仕事もちゃんとしましたよ!念のため)ハンドルを握る。 ただ、何かが引っ掛かっている。奥様のあの笑顔、なんだか前も見たことあるなあ、いつだろう、どこでだろう? ・・・思い出した、相馬だ。一瞬で切なくなる。 あの時代は、お家の畑で採れたお野菜や果物、今日の漁で獲れたお魚、頂くことが珍しくなかった。 「先生は一人暮らしでしょ?食べ切れないと困るけ、南瓜は6個(!)にしといたよ、蒸してちょーっとだけ、塩つけて食べてみな、ほくほくだよ」 「うちの苺はね、水耕栽培だから手の平位あるよ。でも、うんと柔らかいから、輸送には堪えられない。ここでしか食べられない、甘いぞー」 「カニはね、必ず生きているうちに茹でんだよ、必ず背中を下にしてな、さっと茹でたら、熱いの我慢して甲羅開けてな、蟹味噌すくってみて」 こんな声と共に、いたずらっぽい笑顔がいくつもいくつも心一杯に広がる。 耐えられなかった。 皆さん、お元気ですか。今、どちらにいらっしゃるのですか。 皆さんの笑顔は、私の宝物なんです、当時も、そして今でも。 どうかどうか、一瞬でも、あの笑顔が戻っていますように。 原発事故から2年半も経つのに、終結どころか、未だにレベル3に相当する汚染水漏えい事故が起きている。 難しい祈りであることが分かっていたけれど、分かっていても、祈らずにはいられなかった。 私は、あの沢山の笑顔を絶対に忘れません。 そして、あの笑顔を取り戻すことを絶対に諦めません。 私の心にある笑顔は、どんなことがあっても色褪せないし、決して消えません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013.08.29 23:07:15
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