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弁護士YA日記

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日出町法律事務所
2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
2016.02.17
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カテゴリ:東日本大震災
東日本大震災発生前の自分に戻れないことを受け入れるしかないと決意した直後、たまたま、かけがえのない大切な友人である渡辺淑彦弁護士が綴った文章に接した。

原発事故被害救済最前線のいわき市で、毎日、心身をすり減らして活動している渡辺さんが、依頼者である「打ち合わせの度に元気を無くしていく」お年を召したご夫婦を見送った後に、怒りと悲しみと悔しさを一杯に抱えて、どこにもぶつけようがない想いを書いた文章に、涙が止まらなかった。

「弁護士は無力だ」と結んだ渡辺さんの気持ちが痛いほど分かって、でも、「無力じゃないよ」なんて簡単に励ますことなんてできるはずがなくて、多分、傍にいたら、一緒に泣くことしかできないと思った。

原発事故の被害はお金では買えない。
金銭賠償の原則は通用しない。

お金で買えないものを失った人が目の前で苦しんでいるときに、私たちはどうしたら良いんだろう。
渡辺淑彦弁護士の魂の文章、掲載のご許可を頂きましたので、一人でも多くの方に読んで頂きたいと思います。



私は,打ち合わせの度に元気を無くしていく,あの老夫婦になんと声をかけて,励ましてあげればいいのだろう。

 帰還困難区域のバリケードから,ほんの10メートルのところに,彼らの家がある。家は「財物」などと単純に表現することはできない。努力の結晶であり,地域のつながりの拠点であり,兄弟姉妹が集まる場であり,安らぎの空間であり,思い出の詰まった場所であり,引退後に楽しみにしていた趣味の部屋であり,孫らが笑い,集う場であった。しかし,今,みんなバラバラである。誰も集う人はいない。

 一応「除染」は終了した。しかし,すぐ隣のバリケードの中は一切除染していない。近所の家々は,帰らないことを前提に,解体となっている。次々に近所の家が無くなり,更地になっている。地震ではびくともしなかった彼らの家は,寂しく存在はしている。彼らが愛した庭裏の家庭菜園には,除染の結果として,黄色い山土がかけられたままである。実に無機質だ。そこに育っていたはずであった豊かな野菜や果物は跡形もない。

 おじいちゃんが大好きだった果実酒,渓流釣りや海釣りの道具,書籍の数々・・・全部,埃の中にある。ネズミの糞が周り中に散らばっている。大切に育てていた庭の果物の木,ミカン,リンゴ,キュウイ,柿・・・・ほとんどの果実は枯れ果てている。
 おばあちゃんが好きだったお茶の道具,茶室,着物の数々,今は,全部使い物にならない。

 家の中に入れば,自慢の欅の柱や床が,埃をかぶったままま残っている。「解体する気持ちになれない。いつか,また元通りになれるのかもしれない・・・でも,そのころまで生きられない。」 おじいちゃんの涙目が忘れられない。

 「住居確保損害は,住宅を建てた後に払われるものであり,住宅を建てない人には払われません。」東電代理人のいつもの言い分。
 おじいちゃん「もう,建てる元気がありません・・・」
 家を作るというのは,人生のタイミングというものがあると思う。子どもをもうけ,仕事も忙しくも充実してきて,「俺もいよいよ」という時期に,今後の生活設計をあれこれ考えて作るものが,「自宅」である。
 80歳になろうとしている彼らに,そのようなプランを立てる元気もない。本音だろう。

 大きな喪失感,何もやることが無くなった日常,帰るべきか,帰らざるべきか,無理ではないか,でももしかしたら・・・・
全部曖昧である。「曖昧な喪失」がいかに人の心の負担になるか。
 そのような中,避難先で浴びる「賠償もらえていいね」という心無い声。

 人類の英知を結集しても,賠償は金銭賠償しかないと大学で習った。彼らのために金銭賠償を獲得しても,おそらく笑顔にはなってくれないことは分かっている。でも,それでも,せめて彼らの受けた被害を赤裸々に書面にして訴える。今,自分に出来るのはそのくらいだ。
 原発事故で高齢者が受けてた損害。なんと大きいことか。
人生の最期,豊かな故郷で迎えさせてあげたい。何か,心の支えになること,社会的に有益な役割を与えてあげたい。
 もう一度,別の地,別の分野で,彼らの輝きを取り戻してあげたい。弁護士は無力だ。





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Last updated  2016.02.17 17:47:10
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