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500羅漢の微笑み(境界線とメディア)

500羅漢の微笑み(境界線とメディア)

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いよいよ、谷中まつり芸工展の圏内に突入する。乗組員(自転車だけどね)は身を乗り出す。。。

谷中まつり看板
その初っ端にお出ましは、谷中まつり前夜祭としての「キネマの夜」。無声映画活動第写真。活弁士は坂本頼光さんで西日暮里3丁目出身の若手。途中の自己紹介、会場となった防災広場「初音の森」になる前にセブンラックス(なんだか七福神のような名前だ)というスポーツセンターだったところだということを彼も小さい頃に遊びに来て知っていたらしい。たしかにバブルのころだったか、会員になったような覚えがある。プールがあったが、映画『ゆずり葉』の一場面のような立派な飛び込み台があったわけではない。
 むしろぼくのこのあたりの記憶でいうと、すごく博識の同級生が住んでいて、当時めずらしい天体望遠鏡があったように記憶している。乗組員はそこ(その記憶のあやうい処)で自転車を降りた。
 坂本頼光さんの活弁による「瞼の母」は二度目になる。3,4年前に汐見会館あたりで見て、この時にはトクさんでも連れてくればよかったと後で思ったのだが、今回もそう感じた。彼なら、弁士の言葉を細大漏らさず聴き取って、イマジネーションワールドを再構築したに違いないのだから。ちなみにトクさんの谷根千エリアでの活躍でいうと、現在NPO法人映画保存協会が入っている協和会の蔵で10年ほど前に三線の演奏を何度か披露している。メッセージはマッサージである、を地でいくというようなマッサージ師でもある。今年もカバ祭りあるよ、というとノコノコとやってくるやも知れない。ぼくらで北区の一軒家をシェアしていた時代の仲間でもある。
 さて、その「瞼の母」はやっぱり良かった。野外ステージでともすれば周りに目がいってしまうところであるが、やっぱり画面と語りと音楽とに吸い寄せられた。字幕に「俺し」とあるところを「あっし」と読まれただけで、グッとなる。圧巻は(これもネタばれというのなら、読み飛ばして下され、自転車お貸ししますよ)、幼少時に別れた母との再会だが、再会の直後に、「瞼をつぶれば母の顔、あれっ、見えない」。実際に会ってしまった瞬間に瞼の母の顔は見えなくなる。だが、その肝心の母からは冷たくされ、再会すれど心を通わすことなくまた身を引こうと、すれ違いの身。とそこへ母娘が。。。夢か現か。(長谷川伸の原作と映画ともそのあたりは違うようである、あとで坂本さんがそう解説してくれた)。
 映画の画面と瞼という小スクリーンの往還を言葉で行き来してくれる醍醐味を味わうことが出来た。そもそも1930年代の映画を映写機で見せてくれているので、映画の画面自体がフチがうっすらとしていて、眼という窓から見た光景をそのまま映し出しているかの印象もあり、そこに瞬きのごとく(ぼくの)瞼が降りてきて(いかん、あっしも涙が出てきそうである)となった。。。
 映像が夢を見せるものなら、その映像の中で現実をみてしまった主人公が夢を追いだされて白昼の現実へと、そのトンネルを何度も抜ける高速道のような中で瞳は大きくなったり小さくなったり、猫の目になったり、ピンホールになったり。

 瞼の母の原作者、長谷川伸に師事した一人に童話作家にもなった中川童二氏が居た。彼はもともと博覧会の仕事に魅せられ自ら中川造型図案社をおこして、「ランカイ屋」として身を立てた一人であるが、戦後に失明という大転機を迎え、作家に転身された。彼は少年期にギヤマン(ガラスのこと)の文鎮(ぶんちん)を父親の持ち物(記念品)の中に見つける。ギヤマンには大きな外国の建物の写真が入っていた。父に問う。「はくらんけいだよ」と江戸弁で父は答えた、という。
…私は、自分がのちに博覧会にとりつかれ、ギヤマンの中に自分の半生を封じ込めようとは、夢にも思わなかった(『ランカイ屋一代』より)。
 この本には明治から昭和に至る日本での博覧会の様子が建てる側の目で書かれていて楽しい。その中には明治期の上野不忍池あたりの博覧会の様子もある。今ならアートリンクしそうなケーブルカーが何と池の上を航行していた。高さ20メートルの高空から、博覧会の会場を眺めながら、愉快に航行できるが宣伝文句だったらしいが、開会して一か月たっても調子が悪くて動かなかったという。
 その彼にとってのきらびやかな、そして、どこかハリボテの面白さのあった博覧会の光景をギヤマンの記憶と共に瞼のうちに忍ばせて、作家中川童二が生まれた。
 盲学校に入った中川氏が“同級生”の生徒たちにランカイ屋時代のこと、物語を面白おかしく語ったところから、どうやら文筆業としての第二の人生は始まったようだ。
 私は彼の瞼のうちの光景を知って、昨年の芸工展2008では、原っぱ音地で、発砲スチロールと傘で谷根千一帯の上野台地や本郷台地、諏訪台、向ヶ丘などを表現した際に、傘5つでそれらの丘を表現したのと同様に、逆さにした傘を不忍池に見立て、そこに幻のケーブルカーを通しておいた。着色はなし。
昨年の芸工展でこつ然と現れ、一夜にして消えた「まぼろし谷根千境」
(昨年の芸工展でこつ然と現れ、
一夜にして消えた「まぼろし谷根千境」)

不忍池のケーブルカー
(不忍池のケーブルカー)

映画館の進明館

(映画館の進明館)

昔の柏湯
(昔の柏湯)



ちなみに、向ヶ丘台地には駒込大観音と共に、麓にはまぼろしの映画館進明館が。というようなことをよみせ通りの魚屋さん。山長さんから頂戴してきた発砲スチロールの箱(福島産の魚が入っていたと思われる)一箱と、谷中銀座商店街のなかストアーで出たリンゴ養生の緑の集合トレーと、以前イベントで使った球体の発砲スチロールだけで、たった一日のための「まぼろし谷根千境」は創られた。へび道(昔は藍染川)から不忍池に注ぎ込むまぼろしの水を導くホースには、不要となった洗濯機の排水ホース。

魚屋さんの発泡スチロール箱と駒込大観音
(魚屋さんの発泡スチロール箱と駒込大観音)

傘、発砲スチロール、ホース、クリップ、スプレー、トレ―、ホチキスの芯、すべて廃品によるまぼろし谷根千境。廃品は一日の夢をみて光彩を放ち、再び廃品として還って行った。。。

一年前まで寄り道をしてしまった。まあ、ぼくの中ではつい最近のことだから(谷中時間で)やっと紹介する気になったということでご勘弁願いたい。
今年に戻してもまるきり変わるところはないのだけれど(笑)、芸工展は谷根千界隈のart-Link上野-谷中は文字通り上野谷中の、仮設の博覧会場のようなものだという点だ。
 ぼくは若い頃、晴海の国際見本市会場で住宅イベントの設営現場にメーカーの人間として立ち会ってきた。中川童二氏は晩年、その晴海の見本市は博覧会に代わるものとしての一抹の不安を感じられていたようだが(商談のためのスペースになることを?)、実際には博覧会とまではいかないものの、住環境の未来を見本市も担っていたと信じたい。前日の設営の日には4トンダンプが晴海を取り囲み渋滞。トラック野郎がブツを降ろすと、図面に沿った躯体の建てつけ業者、住宅建材の組み立て取り付け業者、経師職人さん。当時のぼくの同僚Wは凄く面倒見のいいヤツでぼくは大変助けられたのだが、ぎりぎりで終わると、さーっと彼らは潮が引いたように次の現場へと姿を消していく(時々始まってからも遠くから眺めていることはあったのだが)。その辺が妙にカッコよかった。また、よろしく頼みますよ、○○さん、といってポイっと缶コーヒーを渡す。たったこれだけのこみゅにけーしょん。(いったいぼくはナニをシタノダロウ、カ)。
 一週間のイベントが終わるとまたどこからともなく現れて、また、どこかへと消えていく。これが美学なのであった。番場の忠太郎なのであった。
 谷根千で今年もいろいろなイベントが目白押しだ。たった一日の、それだけにいとおしい一箱(古本市)に美学を見出す者もいるし、大作もあるだろう。art-Linkの前夜祭のような芸大生によるリヤカーアートのような仮設性そのものの町の博覧会もある。ぼくはぼくで先のメーカー時代の上司が会社でやっているコーヒー豆の風味がそのまま味わえるギャラリーゆり音の仮設喫茶に顔を出したり、鋸屋根の夢の工場を撮り続けられる吉田さんの写真展や今年の谷根千でのホームムービーデイにいまから心ときめかしたり、田中泯さんの再訪に息を整えたり、みゆさんの綴る平成みゆ字体の応援をしたり、ギャラリーTENでのフェイズ展にフラットやってきたソバやの旦那のチラシを受け取ったり、などなど、いつもこの季節の谷根千は仮設と美学に道々ており、それを折り畳みては、また、翌年の糧になっているんであります。
(3342文字)





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最終更新日  2009年10月11日 15時59分42秒


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