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カテゴリ:絵本
センダックのポスターにひとめぼれだった。20年前、渋谷の童話屋。彼が舞台美術を手がけたバレエのデザインを基にした絵本。子どもによっては怖いと泣き出してしまいそうな醜悪な人形の横顔。でも私はこれを待っていた。これだと思った。E・T・A・ホフマンの怪奇趣味に溢れた綺譚『くるみわり人形』。
バレエ狂の私最愛のバレエ音楽はチャイコのくるみで、だから子どもの頃から数えきれないほどのバージョンの絵本を読んできた。中身がまるで改変されてしまっているサンリオの人形アニメの写真絵本まで読んだ(映画では若き日の森下洋子・清水哲太郎ペアが金平糖を輝かしく踊っている。近年DVDで復刻された)……ノベライズは辻真先だった、改編やむなし。 可愛らしいバレエの原作の可愛らしいクリスマス物語という誤解があるのか、「くるみ」絵本はゼリービーンズのようにキラキラはしても甘ったるく胸焼けしそうなものがほとんどだ。でも『砂男』のホフマン。甘いばかりなわけがない。チャイコフスキイの旋律の責任? でも彼の甘美さは辛くて苦しいばかりの日々の果てにほんの一瞬垣間見える天国の甘露。甘味料のそれとは全然違う甘さなのに。存命中は劇作家として著名だったデュマ・フィスが怪奇成分を匙加減して書いた芝居の脚本を、バレエはベースにしているのが主な原因ではあろう。だからヒロインの名前もクララでなくマリー。 モーリス・センダックは子ども業界では『かいじゅうたちのいるところ』の人、ということになるんだろう。私は男の子でも元気な子でもなかったので、彼の絵本に肉体的同調は遂にできなかったのだが、彼のちょっと不穏なユーモア感覚は昔から大好きだった。その資質は必ずしもホフマンとイコールではないのだが、アメリカの子ども向きの舞台に翻訳するならば彼はまさに適役で、デザインを依頼したパシフィック・ノースウェスト・バレエ団の演出家は慧眼である。(翻訳といえば、日本版の渡辺茂男の訳はあたたかみに溢れているのがこの本では欠点になっていると思う。ここは金原瑞人でしょう。どこか底冷えがしなければならないのがホフマン。いくら英語からの重訳でもそこはハズさないでほしかった。) 絵本としてはこれは結局表紙に尽きるのかなという気もするが(←だって気合がずいぶん違うんだもん、外と中)、この舞台は映像でいいから観たかったものとつくづく思う。せめてセンダックデザインのくるみ割り人形、どこかで手に入らんかしらん。ドイツ系のクリスマス屋ならそれっぽいの見つかるかな。 時期はずれもはなはだしい話題だが、最近連続ものとしてナンに毎晩読んでやっているのでとりあげてみた。ドロッセルマイヤーおじさんが語る部分が多い割には必ずしも読み聞かせ向きではない気もするが、基本リクエストにはお応えするのである。 くるみわり人形 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.10.17 12:06:31
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