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テーマ:本のある暮らし(3307)
カテゴリ:絵本
タイトルでおわかりと思うが本年1月1日の記事の続編。
松居直の『絵本の森へ』を図書館で借りてきた。24冊のどれも傑作といっていい絵本について、編集者としてまた子どもに読み聞かせる父親として、そして絵本研究者として語りつくしている本だ。そして24冊の中の1冊が、『しんせつなともだち』であった。 この本が現代中国の作家のオリジナルであること、昔話と見まがう骨格を称えた松居に作者はこれが実話にヒントを得たものであると語ったことなどが書かれている。1日の記事ではまだ直接この本にあたっていなかったために単に戦時中、と書いてしまったが、太平洋戦争ではなく朝鮮戦争時の前線でおきた、慰問団から贈られたひと籠の林檎が譲り合い贈り合いの果てに最終的に最初の慰問団へプレゼントされたという一件が発想のもとだそうだ。 これを人間を動物に置き換え、昔話のぐるぐる話的にまとめ、創作した話が絵本として出版されたのが55年(ということは絵は別の担当者の可能性が高いか)。58年には上海でアニメ映画化もされているという。 『絵本の森へ』では「ペール・カストール」版への言及はまったくない。しかし福音館書店の「あのねメール通信2002年11/6号」に、松居直のこのような言葉が掲載されていることを知った。「40年ほど前に、中国の絵本で読んだこの物語は、フランスと日本でいち早く絵本になりました」。 『夢卜回来了』は55年刊。「ペール・カストール」の1冊として出たのが59年、そして月刊「こどものとも」として『しんせつなともだち』が出版されたのが65年。カストール本を知りつつなお松居が「挿絵は村山の傑作」と自信をもって推すということは、絵の原案は中国版だろう。『絵本の森へ』の同じ章では「挿絵も芸術的とはいえない素朴なもの」と60年頃の中国絵本をまとめて断じていて、『夢卜回来了』の挿絵もまたそのようなものと松居は見たのだろう。日本版を製作するにあたり、まず君島訳があがり、絵本として場面転換その他をどううまく見せるか、誰に絵を描いてもらうかという順に編集者・松居が悩んでいるので、絵本といっても中国版は挿絵が少なかったのかもしれない。緑のコートを着たうさぎだけが印象に残る程度に。 ではタイトルは? 『しんせつなともだち』という題名は、中国の原書『夢卜回来了』からも、「こどものとも」で奥付用につけた英訳タイトル『A RETURNED TURNIP』からも遠い。日本語で「戻ってきたかぶ」とすると『大きなかぶ』のパロディ後日談みたいで冗談にしか聞こえない。その一方でフランス版のタイトルは“Les Bons Amis”(良き友)。うーん、松居氏は語らないけれど、日本語版タイトルをつけたのは彼ではないのか。カストール版のタイトルを参考にして。
『絵本の森へ』は95年刊なので、カストール本を邦訳した『ゆきのひのおくりもの』については当然言及がない。 ちなみにリンとナンは2冊をくらべて『ゆきのひのおくりもの』のほうを気に入ったという。かぶよりにんじん、そして挿絵もちょっと洒落た感じのフランス版のほうがいい、と。 2冊を読み比べると、『しんせつなともだち』は寓話としての力を信じてシンプル、『ゆきのひのおくりもの』は「ペール・カストール」の立ち上げ意図である「絵本による幼児教育」がよりにじんで、道徳本的に念押しが多くなり説明や擬音も多用されている。最後のシーンでうさぎのもとへ置いていくのではなくうさぎの目覚めを待ち、手渡すのも、ともだちっていいなで締めるのも、幼児へのわかりやすさを最重要視したためであろう。場面ごとに「きっと○○からにちがいない」と言わせるのもそうだ。 どちらがよりおすすめかと言われればやはり「こどものとも」版だろう。ただ、こじかの家の窓に障子がはまっていることだけがひっかかる。どうしてここだけいきなり日本なの。村山は終戦直前からその年の冬まで満州にいたから、中国東北部の風俗を知らないはずではないのだけれど。 ↓よろしかったら押してください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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