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土井中照の日々これ好物(子規・漱石と食べものとモノ)

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2021.11.07
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カテゴリ:夏目漱石
 立場を換えてみればこのくらい単純な事実は彼等の社会に日夜間断なく起りつつあるのだが、本人逆せ上がって、神に呑まれているから悟りようがない。製作の上に変化をあらわすのが困難であるならば、その上に徹頭徹尾の模傚を示すのも同様に困難である。ラファエルに寸分違わぬ聖母の像を二枚かけと注文するのは、全然似寄らぬマドンナを双幅見せろと逼ると同じく、ラファエルにとっては迷惑であろう、否同じ物を二枚かく方がかえって困難かも知れぬ。弘法大師に向って昨日書いた通りの筆法で空海と願いますという方がまるで書体を換えてと注文されるよりも苦しいかも分らん。(吾輩は猫である 5)
 
 あの岩の上に、どうです、ラフハエルのマドンナを置いちゃ。いい画が出来ますぜと野だがいうと、マドンナの話はよそうじゃないかホホホホと赤シャツが気味の悪るい笑い方をした。なに誰もいないから大丈夫ですと、ちょっとおれの方を見たが、わざと顔をそむけてにやにやと笑った。おれは何だかやな心持ちがした。マドンナだろうが、小旦那だろうが、おれの関係したことでないから、勝手に立たせるがよかろうが、人に分らないことを言って分らないから聞いたって構やしませんてえような風をする。下品な仕草だ。これで当人は私も江戸っ子でげすなどといってる。マドンナというのは何でも赤シャツの馴染なじみの芸者の渾名か何かに違いないと思った。なじみの芸者を無人島の松の木の下に立たして眺めていれば世話はない。それを野だが油絵にでもかいて展覧会へ出したらよかろう。(坊っちゃん 5)
 
 原口さんはまた絵へ近寄った。
「それで、ぼくがなぜ里見さんの目を選んだかというとね。まあ話すから聞きたまえ。西洋画の女の顔を見ると、だれのかいた美人でも、きっと大きな目をしている。おかしいくらい大きな目ばかりだ。ところが日本では観音様をはじめとして、お多福、能の面、もっとも著しいのは浮世絵にあらわれた美人、ことごとく細い。みんな象に似ている。なぜ東西で美の標準がこれほど違うかと思うと、ちょっと不思議だろう。ところがじつはなんでもない。西洋には目の大きいやつばかりいるから、大きい目のうちで、美的淘汰が行なわれる。日本は鯨の系統ばかりだから――ピエルロチーという男は、日本人の目は、あれでどうしてあけるだろうなんてひやかしている。――そら、そういう国柄だから、どうしたって材料の少ない大きな目に対する審美眼が発達しようがない。そこで選択の自由のきく細い目のうちで、理想ができてしまったのが、歌麿になったり、祐信になったりして珍重がられている。しかしいくら日本的でも、西洋画には、ああ細いのは盲目をかいたようでみっともなくっていけない。といって、ラファエルの聖母マドンナのようなのは、てんでありゃしないし、あったところが日本人とはいわれないから、そこで里見さんを煩わすことになったのさ。里見さんもう少しですよ」
 答はなかった。美禰子はじっとしている。(三四郎 10)
 
 これらの作品に出てくる「ラファエル」「ラフハエル」とは、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロとともに、イタリア・ルネサンス期を代表する画家のラファエロ・サンティのことです。ラファエロは、聖母(マドンナ)の画家として知られ、37年間の生涯のうち、「システィーナの聖母」「アルバの聖母」「アンシデイの聖母」「カーネーションの聖母」「ベルヴェデーレの聖母」「聖母の婚礼」「大公の聖母」「草原の聖母」「ひわの聖母」「小椅子の聖母」など、50枚の聖母像を残しています。
 こうした母と子供が描かれた画には、母親を愛することのできなかった漱石の自我が投影されているようです。





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最終更新日  2021.11.07 19:00:07
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