2509610 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

土井中照の日々これ好物(子規・漱石と食べものとモノ)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

プロフィール

aどいなか

aどいなか

カレンダー

バックナンバー

2024.04
2024.03
2024.02
2024.01
2023.12

カテゴリ

日記/記事の投稿

コメント新着

ぷまたろう@ Re:子規と木曽路の花漬け(09/29) 風流仏に出でくる花漬は花を塩漬けにした…
aki@ Re:2023年1月1日から再開。(12/21) この様な書込大変失礼致します。日本も当…
LuciaPoppファン@ Re:子規と門人の闇汁(12/04) はじめまして。 単なる誤記かと拝察します…
高田宏@ Re:漱石と大阪ホテルの草野丈吉(04/19) はじめまして。 大学で大阪のホテル史を研…
高田宏@ Re:漱石の生涯107:漱石家の書生の大食漢(12/19) 土井中様 初めまして。私は大学でホテル…

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2022.04.12
XML
カテゴリ:夏目漱石
 会場を這入ってすぐ右にある広い室を覗くと、大きな画ばかり並んでいた。そのうちに「南海の竹」と題した金屛風があつた。南海か東海かはもとより自分の関係する所ではないが、その悪毒(あくど)い彩色は少なからず自分の神経を刺激した。竹といい筍といい、筍の皮といい、ことごとく一種の田臭を放って、観る者を悩ませているように思われた。自分はこの間表慶館で、猫児と雀をあしらった雅邦の竹を見た。このむらだらけに御白粉を濃く塗った田舍女の顏に比較すべき竹の前に立った時、自分は思わず好い対照としてすっきりと気品高く出来上がった雅邦のそれを思い出した。この竹の向側には琉球の王樣がいた。その侍女は数からいうと五六人もあったろうが、いずれも御さんどんであった。その橫には春の山と春の水が、非常に大きく写されていた。自分はその大きさに感心した。(文展と芸術 6)
 
 これらは、日本画第一科の展示です。
 田南岳璋筆「六曲屛風一双」、山口瑞雨筆「琉球藩王図」、田中頼章「水郭の春」について記しています。
「六曲屛風一双」については、ケバケバしくて田舎臭い画だと酷評しています。漱石は、以前に表慶館で鑑賞した橋本雅邦筆「竹林猫図」の清々しさとはまったく異なる画風の絵に嫌悪感を覚えたのでした。岳璋は三重生まれの日本画家で、日本美術協会展で賞を得ています。「琉球藩王図」も同様に田舎臭いものでした。瑞雨は栃木生まれの日本画家で、やはり日本美術協会会員です。大きさに驚いたのは田中頼章「水郭の春」で、三等賞。頼章は真似生まれの日本画家で、日本美術協会展や文展で賞を得ています。
 
 次の室には綺麗な牡丹があった。御公卿様が大勢いた。三国誌の插画にあるような男も二人ばかりいた。それから白楽天と鳥巣和尚が問答をしていた。(文展と芸術 6)
 
 第二室には牡丹を描いた石河有鄰「春庭香艶」、お公家様が集った磯田長秋「宴」、三国志に出てくるような画は池上秀畝筆「朔北」、白楽天と鳥窠和尚が対話をしている画は今井爽邦「汝が居所却て危しがありましたが、興味がなさそうです。有鄰は名古屋出身の日本画家、長秋は東京生まれで、この絵は褒状を得ています。秀畝は名古屋生まれで文展でしばしば受賞し、帝展委員をつとめたこともあります。爽邦は新潟生まれです。
 
 その次の室の入口に近い所で「平遠」というのに出合った。芭蕉があって、鶴がいて、丸窓の中に赤い着物を着た人がいた。そうして遠くの方の樹や土手や水が、如何にもあっさりと遠くに見えた。自分はこれが欲しいと思った。目録を調べると、田近竹邨という人の描いたもので価は五百円と断ってあった。それで買うのはやめた。この隣りに「火牛」がいた。名前は火牛だけれども、実は水牛である。もし水牛でなければ河馬である。実に恐るべく驚ろくべき動物である。そのあるものは鼻を逆さまにして変な表情を逞しうしていた。向う側には烏と鷺が松の木に留っていた。もっとも鷺のあるものは飛んでいた。しかし両方とも生活に疲れていた。そうして羽根の色が好くなかった。曲り角には大きな真黒な松が生えていた。この松には風も滅多に触ることが出来ない。蟬などはとてもく寄り付けた訳のものではない。(文展と芸術 6)
 
 第三室では田近竹邨「平遠」が気に入りました。しかし、500円と高いので買うのを諦めます。牛を描いているのは津端道彦「火牛」で二等賞を得ました。烏と鷺の画は望月金鳳「松上烏鷺図」で審査委員出品、曲がり角にあったのは益頭峻南「玄雲・地」です。竹邨は京都生まれで、文展では第2回から連続受賞しています。道彦は新潟生まれで、こちらも文展で第2回から連続受賞しています。金鳳は大阪生まれの四条派画家で急派の重鎮です。峻南は幕府役人で、フランス語の通訳でもあった変わり種の日本画家で、第2回から審査委員をつとめています。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2022.04.12 19:00:05
コメント(0) | コメントを書く
[夏目漱石] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.