殺生関白の蜘蛛 La Trampa de la Arana
かつて松永弾正の麾下でありながら、秀吉の軍門に下り秀次の臣下となった舞兵庫(前野忠康)は、秀吉と秀次両人から真の平蜘蛛の釜の探索を命ぜられる。兵庫が弾正から預かり弾正が秀吉に献じた平蜘蛛は真っ赤な偽物だというのだ。では本物は何処にあるのか?そしてキリシタン宣教師たちの思惑と平蜘蛛はどのように関わっていたのか数寄者織部正一、その弟子直参小堀政一ととも平蜘蛛に秘められた謎を探る舞の前に、石田三成と納屋助左衛門の謀略がたちはだかる。--------------------文体良し、ストーリーの構成良し、謎の着想良しと非常にバランスの取れた完成度の高い作品。読み始めてすぐに、これってある意味聖杯伝説?と直感したらズバリそれだった。ぶっとんだ発想をオーソドックスな筆致で描ききる作者の技量は見事で、ミステリーの要素抜きでも時代物、伝記小説として十分に楽しめた。淀みない文章と、予想外の物語の展開に牽引されてさくさく読み進んだら、ラストで思いがけず伏線回収と推理の披露があるどんでん返し。思わずこう来たかと膝を打つ嬉しい驚き。(ロジカルに検証する本格ものミステリーの「謎解き」とは趣を異にすると、一応お断りしておく)欲を言えば、謎の中心であるはずの秀次の人物造型が精彩を欠くことがやや不満だがそれは大した瑕疵ではない。本作を優秀賞に選ぶとは、クリスティー賞もなかなか良い仕事をすると、ちょっと見直した。作者にはこれからも時代物ミステリーを描いてほしい。本職は住職とのことで、寺社を舞台にした本格見立て殺人ミステリーとかいいかもなんて、期待と妄想が拡がる。