まほり
井戸の底管理人巻頭贅言ネタバレあり。というだけでなく、あくまでも歴史ミステリーを読んだ個人の主観的チラ裏です。この小説では殺人事件は起きません。土俗信仰の見立て殺人ミステリーを期待なさる方、専門用語の多用や専門知識の薀蓄を好まない方はご注意下さい。::::-------------------妹の転地療養に伴って地方に引っ越した中学生長谷川淳は、夏のある日の山奥の渓流で異様な佇まいの美少女を目撃する。【射干玉(ぬばたま)の黒い髪は肩ほどの長さに乱れ、藪を引き分けてきたのだろうか羊歯(しだ)の葉が後ろ髪に絡みついて下がっていた。後ろ姿からすると淳と同じほどの年格好と見えた。(本文より)】刹那現れ、幻のようにかき消えた少女は、誰で何処に住む者であろうか。大学で社会学を先行する勝山裕は、ゼミで「都市伝説の伝播と変容」をテーマに研究をおこなっていたが、資料の検証を行ううちに彼の出身地である北関東T市の近郊の伝承に行き着く。奇遇にもそこは淳が奇妙な体験をした土地であった。「まほり」の三文字に秘められた土俗の信仰を暴こうとする、裕のまえに立ちはだかる闇とは。そして少女の行方を追う淳が知った、集落に未だ伝わる忌むべき祭祀の存在とは。-------------------------浩瀚な民俗学の論文を読みこなす気分で、400ページ余を捲る。学生時代、折口信夫全集を図書館でみつけて読みふけった私には、どうにか興味をつないで読み終えることが出来た。ということは、民俗学に関心のない人にこれだけの長丁場の読書を耐えることが出来るかは疑問である。作者独自の発想と解釈で「まほり」の真相を,スリリングなストーリーテリングに絡めた、ホラーやサスペンスの要素も十分な語り口は、物語として完成度は高かろうが、誰にでも手放しで推せるものではない。それにタブーとされる〇〇食や生○が民俗学的考察の対象にされること自体は、お約束どおりで凡庸な成り行きである。民俗学に多少の知識があれば展開も読めてしまう。それゆえ、其処らヘンの記述はドキドキもワクワクもしなくて、さすがに飽きた(あくまで個人の感じ方だが)最後の一捻りで、裕が「まほり」の意味を解くヒントになった、裕の 亡き母の秘密 が明かされるのも、後出しジャンケンとも思えた。まっ、これこそ最後まで読者に隠し通さねばならない極秘事項なので止む終えないだろうけど。