アドラー心理学の中に目的論というものがあります。
人間は目的を達成するために行動しているのだという考え方です。
日々取り組むべき目標や課題を持たないで、惰性で生きていくことは精神的にも身体的にも大きな苦痛をもたらします。
絶えず目標や課題を持って生活しているのが普通の人間です。
この生き方は、常に努力精進していくことが不可欠となります。
森田では雑事や雑仕事に丁寧に取り組むことを目指しています。
しかし、日々の生活を丁寧にこなしていくというのは案外しんどいものです。
油断しているとすぐに楽な方向に流されてしまうことになります。
そうなりますと、目標や目的が蚊帳の外になり、その隙間を埋めるように「かくあるべし」がでてきます。
今まで現実に立ち位置を決めて、下から上目線で目標や目的を目指してきたのですが、努力することを放棄した途端に、上から下目線で現実批判を始めてしまうのです。目標や目的の存在が、自己否定のための材料に変わってしまうのです。
これでは目標や目的を持っていなかったときの方が、精神的には楽だったということになりかねません。
ここで大切なことは、目標や目的から決して目を離してはいけないということです。目標や目的から目を離すと、暇を持て余すようになるとともに、精神的には地獄の苦しみをもたらすようになります。
このアドラーの目的論に近いことを森田先生は次のように言われています。
川に架かった丸木橋を渡るとき、向こう岸の目的物をしっかりとらえて思い切って渡ることが大切です。
足元の安全を確かめたり、川に落ちたらどうしようかなどとネガティブなことを考えていると、挑戦することを躊躇してしまいます。その結果目的が果たせなくなります。また仮に破れかぶれで行動すると川に落ちてしまう。
森田先生は、神経症のとらわれから抜け出す方法は2つあると言われています。
ひとつめは、自分の心がとらわれから離れない時には、そのとらわれのままにとらわれていることである。これは不安になりきるということです。
もうひとつは、決して目的物から目を離さないことであると言われています。
苦しいので目をそらして、他のことを考えて気を紛らわせるようなことをしてはいけないと言われています。