気を取り直して、うちに帰ろうとすると、
彼とよく似た人が、女の人と寄り添って歩いているのが見えた。
他人の空似だよと自分に言い聞かせるが、
確かめたくなってしまう。
こんなところに彼が居るはずないじゃない。
まだ仕事をしてるのだろうし、
自宅だって、ここから離れているのだ。
私に見せつけるみたいに、うちの近所を、女性と歩く訳がない。
そう思いながらも、後を付けてしまった。
見慣れた風景のはずなのに、遠くに感じて、
どこに居るのかさえわからなくなってしまう。
二人に導かれていったのは、なんとうちだった。
彼は私の部屋に明かりが灯ってないのを確かめるように見上げると、
彼女に何か囁いていた。
何を言ってるのかは聞こえないが、
仲むつまじそうな様子に体が震えてきてしまった。
彼のことは諦めかけていたくせに、
他の女性と一緒のところを見ると、やはり耐えられないのだ。
物陰に隠れて様子を窺っていると、
二人でまた、もと来た道を引き返していった。
緊張が解けて、体に力が入らない。
彼女が新しい恋人なのだろうか。
その場にうずくまってしまったが、
あまりにも信じられない出来事に涙も出ない。
もう何も考えたくない。
足を引き摺るようにして、
部屋への階段を昇る。
2階なのになぜこんなに遠いのだろう。
みすぼらしいアパートを見て、
彼女と一緒に笑っていたのだろうか。
悔しいというより、哀しすぎる。
田舎から逃げるように上京してきて、やっと仕事を見つけた。
少ない給料では、こんなところしか借りられなかったのだ。
親と同居している彼には想像できないだろうけど。
自分がみじめに思えて、堪らなかった。
せめて早く部屋に戻りたい。
鍵を開けようとすると、なぜか開いている。
ドアを開けると、白蛇が待っていた。
「おかえり。」
いつもの何気ない言葉が、やけに温かく感じる。
「ただいま・・・」
声が震えて、嗚咽になってきてしまった。
急に全身に哀しみが押し寄せてきたのだ。
待っててくれるものが居るだけで、
心が溶けてしまうものなのか。
玄関で泣き崩れてしまった。
出来たら最初から読んでいただけると、ありがたいです。
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