カテゴリ:読書ノート
毎日ミナコさんのレビューを読んで面白そうなので、読んでみた。 現代小説は歴史的な背景とか、基礎知識とかをいっさい必要とせずに読めるし、今現在の自分の生活や気持ちがダイレクトに描かれているから読みやすいし、わかりやすい。けらけら笑えるようなコミカルで軽いノリだというので、読んで見たけれど、どうしてどうして、やっぱり小説は怖い。 普段無視して、ごまかしてる自分の心の暗部をこんな風に描き出されると、ギクッとする。文学ってのは、実際そういうものだけどさあ。 街中の普通の総合病院にある、ちょっとマイナーな扱いの神経科。やたらマイナーすぎて、めったに患者が来ないので、すこぶるすいてます。おかげで患者は後の人のことをきにせず、ゆっくりたっぷり自分の気持ちを医者に話せる。この医者というのが、実はこの病院のあととり息子のはずなのだが、変わり者のせいで、病院内での扱いはわるい。あきらかに、他の雇われているはずの医者からも、軽視されている。 しかし、そんなことは一向気にせず、ちょっと変わった治療と会話と個性の医者伊良部が、この話の読みどころか。 ちょっと、というか、かなり太目の神経科の医者伊良部。二重あごだって。俳優としては、最初に西田敏行をイメージした。しかし、描写ではもっと太っているので、もっと他のおでぶの男優かなあ。 物語は、五つのエピソード、五人の患者に分けられている。 どれも、それほど深刻な病気ではなく、いまどきよくある現代人ならだれもがちょっとした拍子にかかってしまいそうな、ビヨーキである。携帯依存症や、強迫神経症、運動依存症とか。 その患者たちがだれもみな、自分のコンプレックスを心のそこに沈めながら、表面上の愛想のよさや、笑顔をみせ、そして心とは裏腹に、他人を馬鹿にして、下に見ることで何とか自分を保とうとする。 道徳的にも、倫理的にも、良くないことと知っていながら、いつのまにか心にわくそんな感情と、心理が、実に見事に微細に描写されていて、読んでいて、笑えるというよりも、怖かった。ドキドキ。だって自分も普段やってるもの。おもいあたるもの。 普段、そんな心理や思考が沸きながら、その場でかき消したり、きずかないフリをしたりする、だれもがもつ他者への侮蔑。 普段はそれでとおりすぎてしまうそういった心の闇につかまり、はまり込み、抜け出せなくなっていく患者たちの足元にライトを当て、普通の医者なら、薬や説教だけで済まそうとする部分を自らの言動と行動で、患者たちにきずかせていく伊良部が面白い。 携帯依存症の少年にくだらない自分の日常のことをメールにして、送り続けることで、少年自身の行動が他者にどう感じられているかを実感させようとしたり、女優をめざす美人コンパニオンに同じように俳優志望を演じて、その行動が外側からいかに滑稽に見えるか、実践してみせる。 伊良部の治療にはすべて実践が伴う。 小説だからこそできるこんな方法は、たぶん現実にはもちろん出来ないんだろう。 自分が神経科的な疾患になったら、読んでみるといいのかもしれない。 医者に行かずに直せるかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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