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2009年10月30日
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カテゴリ:明治の群像

手に茶碗をのせると客の前に運び、客が飲み終わると戻っていく”お茶汲み人形”。
矢台に置かれた矢を人形が順番に手に取り、連射していく”弓引き人形”。

江戸時代の末期、そうした、からくり人形を作って、たちまち評判となり、
全国にその名を知られたのが「からくり儀右衛門」です。

しかし、彼は、単にからくり師として、その生涯を終えたわけではなく、
からくり人形で培った技術や知識を発展させて、数々の発明を行い、
幕末から明治初期においては、日本の技術者の草分けとして、
数々の功績を残した人でもありました。

彼は、その独創的な発明や技術によって「東洋のエジソン」と称されたりもしています。

本名は田中久重、幼名を儀右衛門といいました。
今回は、そうした「からくり儀右衛門」こと田中久重の生涯について
まとめてみたいと思います。


田中久重は、寛政11年(1799年)に筑後国久留米の城下で
鼈甲細工店を営む田中弥右衛門の長男として生まれました。

子どもの頃から、職人であった父の傍らで、その仕事ぶりを見て育ち、
また、もともと手先が器用であったため、
父の仕事場で色々な道具を遊び半分でいじりながら、
道具の使い方を自然に覚えていったそうです。

そんな、久重少年が、最初にその才能を発揮したのが9才の時。

寺小屋の仲間が、硯箱に度々いたずらをするのに業を煮やしていた久重は、
自分しか開けられない巧妙な鍵がついた硯箱を作り、
周りの仲間たちを驚かせました。
彼はこの時、発明・工夫することの楽しさを感じたといいます。

15才の時には、近所に住む、久留米絣の作者から依頼されて、
絣に絵模様を織り込むための織機を完成させました。
これにより、彼の発明家としての評判が、周囲に鳴り響いていきました。

ところで、この頃、
久留米城下の五穀神社に見せ物小屋があり、
久重は、そこで見た、からくりのお茶汲み人形に魅せられていきます。

彼は、何とかして、これと同じからくり人形を作りたいと思い、
それ以降、からくり作りに没頭していきました。
ちょうど、父がからくりの仕掛けについて書いた本を長崎から持ち帰っていたこともあり、
これを参考にして、ついに、同じ型の”お茶汲み人形”を作ることに成功します。

これでコツをつかんだ久重は、続けて、弓を連射する”弓引き人形”や
水力により、天女が雲の上で舞う”雲切り人形”など、
独創的なからくり人形を、次々と作り出していきました。

そして、これらのからくり人形を、見せ物興業で発表したところ、たちまち大評判となり、
久重は、からくり師として身を立てていく決意を固めます。
その後は、京都・大阪・江戸と、全国を興業にまわり、
それとともに、さらなる技術修行を続けていきました。

天保5年(1834年)久重35才の時。
自分の技術に自信を深めた久重は、
大阪への移住を決意し、家族を呼び寄せます。

この頃には、久重も、からくり人形ばかりでなく、
様々な発明品を作ることにより、生計を立てることが出来るまでになっていました。

この時期の久重は、様々な発明品を世に出していきます。

【携帯用懐中燭台】
折りたたむと板状になり、懐にもしまうことが出来る真鍮製の燭台。

【無尽灯】
ろうそくの灯は、ゆらいでいるために、非常に見にくかったのを、
空気の圧力で、菜種油が管をつたって灯心に昇る仕掛けを発明し、
長時間安定した灯りを供給できるようにしました。

【雲龍水】
水を10mも飛ばすことができる消防用の手押しポンプ。
これのおかげで、大火にならずに済んだと、大いに感謝されたという話も残っているそうです。

【万年自鳴鐘(万年時計)】
西洋時計と和時計が融合された、工芸品のような時計で、
曜日・二十四節気・旧暦の日付・月の満ち欠け等、
あらゆる時の概念が一つに凝縮されているといった複合時計です。
これは、からくり時計の史上最高傑作とも云われ、
時の関白・鷹司卿からも「日本第一の細工師」であると絶賛されました。

発明家として、世に知れ渡るようになっていった田中久重。
しかし、そうした久重の人生にも大きな転機が訪れます。
ペリー来航に始まる幕末の動乱により、
時代は、西洋諸国のような進んだ科学技術の取得を熱望し始めたのです。


嘉永6年(1853年)
久重、54才の時のこと。
久重は、高い技能を持つ技術者を求めていた佐賀藩から、仕官するようにと勧誘を受けました。

久重は、佐賀藩に仕えることとなり、
当時、日本でも最先端の科学技術研究機関といわれていた、
佐賀藩の精煉方という部署に配属され、
これ以降、久重は、蒸気機関や大砲など最先端の技術開発に取り組むことになります。

日本で初めての国産蒸気船「凌風丸」を製作。
また、模型ではあるものの、実際に動く蒸気機関車の模型も作りました。

さらに、郷里である久留米藩からも技術顧問として招聘され、
ここでは、当時の先端兵器であるアームストロング砲も完成させています。

幕末の藩営技術の向上においても、大きな足跡を残していった久重。

しかし、時代は、やがて明治維新を迎えることとなり、
藩営工場も閉鎖されることになります。
久重も故郷の久留米に戻って、またもや、大好きな発明を続ける日々を送りました。


ところが、明治という新しい時代も
久重を、そのままおいては、おきませんでした。

明治4年(1871年)
電信機国産化の必要性を感じていた明治政府が、
その技術者として、久重を東京に呼び寄せたのです。
久重、この時、すでに72才。

東京に着くや、久重は、早速、電信機の開発に取り組み、
苦心の末、これを作り上げます。
そして、この電信機は、輸入品と違わぬ精巧さを持ち、
操作性はそれ以上であるとの、高い評価を受けるほどの出来でありました。
政府からは、電信機の追加注文が続々と入ってきたそうです。


明治8年(1875年)
久重は、東京・新橋南金(現在の銀座8丁目)に、新しい工場兼店舗を構えました。
日本初の民間工場、田中工場です。

この田中工場は、電信機ばかりでなく、
一般機械全般を製造する総合機械工場で、
さらに、ここでは、
久重のもとで、多くの技術者が育っていきました。

「沖電気」の創業者である、沖牙太郎、
宮田自転車で知られる自転車会社を創設した宮田政治郎、
日本初の国産旋盤を開発し、工作機械の父と言われた池貝庄太郎 など
その中心人物です。

そして、田中工場自体も、
久重の弟子である田中大吉が、2代目久重となり引き継がれていきました。
2代目久重は田中工場を継承して「芝浦製作所」を創設。
やがて、これが、現在の「東芝」へと発展していくことになります。


久重が死去したのは、明治14年(1881年)。
享年82才でありました。

先端技術を駆使し、もっと人々の生活に役立つ発明をしていきたい。
幕末から明治に至る動乱期にあって、常に時代の先を見据え、
人々を楽しませる発明を追い続けた人生でもありました。

老いてもなお、「からくり儀右衛門」の頃そのままに、
永遠の発明少年のようであったという田中久重。

久重の人生そのものが、モノづくりニッポンの原点だったのではないか。
久重の生涯を振り返える時、そのようにさえ思えてきます。





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最終更新日  2009年10月31日 15時11分06秒
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