「昭和国民文学全集(7)長谷川伸集」 【長谷川伸】
昭和国民文学全集(7)(著者:長谷川伸|出版社:筑摩書房) 「荒木又右衛門」と「まむしのお政」の2編。 大衆演劇のようなものかと思ったら、大違い。 「荒木又右衛門」は、緻密な考証を元にした実録小説とでもいうようなものだった。 考証の部分は、二字下げで著し、「~という説もあるが、ここではとらない」などと述べている。 あらましは知っていたが、大久保彦左衛門が生きていた時代であり、徳川忠長の死があった時代が背景になっていることを初めて知った。 ただ、小説としては不満が残る。 もっと「小説」に徹して貰いたかった。 特に、和吉とお沢の話は決着がつかないままに終わっている。 現実ならそういうものだろうが、この二人に関する部分は虚構なのだから、何かしら決着を付けることもできたはず。 また、又右衛門の師が柳生十兵衛ということになっているが、これは無理があるのではないか。十兵衛にも教えを受けたかもしれないが、宗矩の教えを受けたと考えた方が自然ではないだろうか。 九歳年下の十兵衛の教えを受けてこれほどの達人になったとすると、十兵衛は、ほとんど人間を超えた存在となってしまう。 「まむしのお政」は、孝女として表彰されかけたがかえって仇となって、悪女への道を進まざるを得なかった女の一代記。 お政は純真で苦況にあるものを助けてやろうとする心の持ち主であるのに、詐欺と盗みを重ねる女となってしまう。 小説としては、「荒木又右衛門」よりこちらのほうがずっと面白い。 何とかして「瞼の母」や「一本刀土俵入り」を読んでみたい。