数多くの欧州南米のサッカーを見ていると気が付くが、強国になればなるほど対戦相手に合わせた試合運びをするようになる。簡単に言えば相手を同格と認めたときには一生懸命プレイするが、格下のときには手を抜いてしまうのだ。手を抜くと言うよりも気持ちが緩むと言った方がより近いかもしれないが、そこに格下の国が付け込む隙が生じるわけで今回のワールドカップで言えばスペイン対スイスがそれに該当する。いわゆる番狂わせだが、先日のスペイン対パラグアイ、この試合を見てパラグアイの底力を感じた人も数多く居るだろう。パラグアイが最初に獲得したPKがもし決まっていたとしたら、正直試合の行方は全く分からず、パラグアイがスペインに勝利した可能性も少なからずあるような気がする。
で、この試合を見た後に日本対パラグアイ戦を再度思い起こすと、やはりパラグアイは日本に合わせてしまったのだろう。どう見ても対スペイン戦よりも対日本戦はプレイそのものの質が一段落ちる。いま考えても日本対パラグアイ戦の試合内容は平凡で退屈だったと思うが、だいたいプレイしている本田圭佑選手が自ら『もっと攻めに行く姿勢を世界に見せるべきだったとも思う。俺が日本人かパラグアイ人でなければ、この試合は見ていない』と発言しているのだ。裏を返せばグループリーグを突破したベスト16のチーム同士の試合として、世界中の人に見てもらうのには少々お粗末と言っているのと同じ事だろう。
ところが、翌日の日本の新聞を見るとまるで正反対の評価をしている。しかも中には『感動をありがとう』などと書き込む人も少なからず居る始末だ。ベスト8に進出出来るかどうかワクワクする期待感はあったとしても、あの試合を見て感動するのは正しい評価ではない。もちろん我々のように数多くの欧州南米サッカーの試合を見ている人間と、初めてワールドカップを見る人達ではものの見方が異なるのは理解出来るから、『感動をありがとう』を一概に駄目というつもりはないが、ただ確実に言えるのは正しい分析をせずに十把一絡げで『感動をありがとう』と宣伝しているマスコミや一般人の評価からは、決して将来の日本代表を育もうという姿勢は見られないということだ。ちなみに他国の評価を調べてみると
●英テレビ「日本にもっと野心あれば別の結果に」
TV解説者は試合を通じて、ゴールキーパー川島永嗣選手を中心とした日本の守備の堅さを評価したが、一方で「日本は極めて守備的」「試合を落とすことの恐怖心がゲームを支配している」と述べ、果敢な攻撃が少なかったと指摘した。
●「今大会で最も退屈な試合」南ア通信は酷評
サッカー・ワールドカップ(W杯)開催国、南アフリカの南ア通信は29日、パラグアイが日本を下した試合について「日本もパラグアイも、チームを活気づけ、攻撃を先導する選手がいなかった。今大会で今のところ最も退屈な試合の一つだった」と酷評した。さらに「両チームとも凡庸だった。切迫した場面もなかった」と付け加えた。
●「日本がより上にいくには決定力向上が必須」フランス名門紙が日本に敬意あるコメント
しかし、見る者を楽しませたいテレビの立場から、日本とパラグアイ双方に進取の気性が欠けていると見たようで、「どちらが勝つにせよ、こんな戦い方をしていては、この後より先まで勝ち進むことはできない」という厳しい声も出た。
【石井紘人レポート】日本対パラグアイ「“感動をありがとう”だけで終わりにしてはならない」
ベスト8をかけて臨んだパラグアイ戦。海外メディアから岡田監督に「もっと攻撃的にやればよかったという悔いはないか」と質問が出たように、誤解を恐れずに言えば、決して実のある試合ではなかった。フランスの二の舞にならないためにも、岡田監督の戦術は世界を相手にしてどうだったか。日本サッカー協会の代表監督選考に不備はなかったのか。我々、そして世論が厳しく分析すべきだと思う。次のW杯で勝利の女神を振り向かせるために。
戦前の予想を全く覆しグループリーグを二勝一敗で勝ち抜けた岡田監督の手腕は高く評価されるべきだと思うが、トーナメントはさすがに前人未踏の領域だったのだろう。選手のコンディション作りを含めて世界中の人達が期待している勝ち残ったベスト16同士の試合としては見応えのない平凡な試合だった。そして何よりも残念だったのは勝つという意欲に乏しかったことだ。その国のサッカーの実力はマスコミ・一般大衆の眼力に正比例する。簡単にいえば見る目を持たないマスコミや一般大衆の元ではいくら頑張ってもサッカーの実力は上がらないと言うことだ。感動をありがとうはサッカー初心者の見方であって、戦術の検討、監督の采配、勝因敗因の分析、戦犯追及等マスコミのやることはたくさんある。ちなみに『感動をありがとう 違和感』で検索をかけると、相当数ヒットすることからもおかしいと思っている人はかなり居るはずだ。
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