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2009年03月15日
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「人間と生まれて」(森信三修身教授録第二講より)

○この修身の講座は、森先生が大阪の天王寺師範学校で行ったものである。先生が四十歳のときである。
 森先生は二宮尊徳の「二宮翁夜話」の開巻劈頭にある『天地不書の経文を読め』との一句により、学問的開眼を得たという。うん、そのことだけでも親近感が持てるな。
 先生はいつも静かに入って来られて、丁寧に礼をされた。十八歳の学生は今までこんなに丁寧に礼をされる先生にあったことはなく、みな不思議な感じを受けた。

「さて、諸君らは、大体今年十八前後とみてよいでしょう。してみると諸君らは、この地上に人間として生をうけてから、大体十六、七年の歳月を過ごしたわけであります。
 ところが、それに対して諸君は、一体いかなる力によって、かくは人間として生を受けることができたかという問題について、今日まで考えたことがありますか。
 私自身が諸君らくらいの年頃には、このような大問題に対して、深く考えたことはなく、今や四十という人生の峠を越えかけた昨今に至って、ようやくこのような人生の大問題が、自分の魂の問題となりかけたわけです。
 われわれ人間にとって、人生の根本目標は、結局は人として生をこの世にうけたことの意義を自覚して、これを実現する以外にないと考えるからです。そしてお互いに、真に生き甲斐があり生まれ甲斐がある日々を送ること以外にはないと思うからです。
 ところがそのためには、われわれは何よりもまず、この自分自身というものについて深く知らねばならぬと思います。言い換えれば、そもそもいかなる力によってわれわれは、かく人間としてその生をうけることができたのであるか。私達はまずこの根本問題に対して、改めて深く思いを致さなければならぬと思うのです。
ところが現在多くの人々は、自分がここに人間として、生をこの世にうけることができたということに対して、格別ありがたいとも思わずにいるんじゃないでしょうか。
 しかしながら、そもそもわれわれのうち果たして何人が自分は人間として生まれるのが当然だと言い得るような、特別な権利や資格を持っているものがあるでしょう。われわれは、この地上へ生まれ出る前に、人間として生まれることを希望し、あるいは決意をして生まれて来たわけではありません。われわれがこの世に生を受けたのは、自分の努力などとは全然関わりのない事柄であって、まったく自己を超えた大いなる力に催されてのことです。
 否、それだけではなく、われわれはこの世に生を受けた後といえども、そうとう永い間、自分が人間としてこの世へ生まれ出たことに対して、何ら気づくことなく過ごして来たのであります。それどころかわれわれは、何人も自分の生年月日も、その生誕の場所も知らないわけです。諸君らが知っていると考えている生年月日は、実は両親から教えられた結果であって、われわれは直接に自分の生年月日や生誕の場所を知るものではないのです。それ故私は、このことをわれわれの根本的な無知の一つの事例と考えているのです。
 こういう有様ですから、諸君らにしても、今日生後二十カ年になんなんとしながら、人間として生をうけたことに対して、しみじみとそのかたじけなさを感ずることができないわけです。私の考えでは、われわれ人間は自分がここに人間として生を受けたことに対して、感謝の念の起こらない間は、真に人生を生きるものと言いがたいと思うのです。人身を受けたことの感謝は、昔の人が言った「人身うけがたし」という深い感慨から初めて発して来るのです。それを「かたじけない」と感謝の念があって初めて真にその意義を生かすことができるのです。
改めて敬虔な態度に立ち人生の真の大道を歩みましょう。」


「森信三さんの『人生二度なし』を読むから聞いて」

「森先生は、『この人生は、二度と再び繰り返し得ない。この人生二度なしの真理を痛感して、その精神が死後にも残るような人間になってもらいたい』と生徒達に教えたんだ。
 真民さんは、晩年の森先生に三度会い、その教えを聞いて『詩国』という詩集を毎月出そうと決心し四〇年かかって五〇〇号発刊したんだ。
『人生二度なしは、森信三先生の哲学であり、これを継承しない者は弟子と言うことはできない。私は信仰として、受け継いでゆこうと思っている。九十歳を越えると、人生二度なしの短い言葉が、いよいよ胸の中に、生き仏の言葉として迫ってくるが、私は大宇宙の最高最大の言葉として、実践し、寅の一刻の祈りをしている。私が九十五歳になることができたのも、この祈りのおかげだと思っている。』と言っているんだよ。」





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最終更新日  2009年03月15日 23時08分01秒
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