全て
| 報徳記&二宮翁夜話
| 二宮尊徳先生故地&観音巡礼
| イマジン
| ネイチャー
| マザー・テレサとマハトマ・ガンジーの世界
| 宮澤賢治の世界
| 五日市剛・今野華都子さんの世界
| 和歌・俳句&道歌選
| パワーか、フォースか
| 木谷ポルソッタ倶楽部ほか
| 尊徳先生の世界
| 鈴木藤三郎
| 井口丑二
| クロムウェル カーライル著&天路歴程
| 広井勇&八田與一
| イギリス史、ニューイングランド史
| 遠州の報徳運動
| 日本社会の病巣
| 世界人類に真正の文明の実現せんことを
| 三國隆志先生の世界
| 満州棄民・シベリア抑留
| 技師鳥居信平著述集
| 資料で読む 技師鳥居信平著述集
| 徳島県技師鳥居信平
| ドラッカー
| 結跏趺坐
| 鎌倉殿の13人
| ウクライナ
| 徳川家康
カテゴリ:報徳記&二宮翁夜話
第十 挙直(上)
廃国・衰邑を興すの道は、直きを挙げて、枉れるを錯くにあり。直きを挙るに投票を以てするは則ち自ら用ひずして諸れを人に執るものなり。苟も自ら用ひば、則ち大業を得て成す可からず。廃れたるを挙げ、衰へたるを興すは大業なり。故に一村を挙ぐる自り、以て善を賞し窮を恤み屋を蓋き室を造るに至るまで、皆投票を用ふるなり。且つ夫れ廃れたるを挙げ衰へたるを興すに必ず仁術を施す。民の仁術を慕ふこと、猶ほ大旱の雲霓を望むが如きなり。成湯の征伐するや、東面すれば則ち西夷怨み、南面すれば則ち北狄怨む。封内の民の仁術を慕ふも亦た然り。然して一邑を数百邑中に抜くこと、豈に一人の見聞の能く及ぶ所ならんや。故に投票を以て孝弟力農なること封内に出づるの邑を挙げて以て仁術を布けば、則ち封内の民、仁術に沐せんと欲するなり。相ひ率ゐて精励に赴かんこと、譬へば一折の薪を一束薪中に撃つては、即ち一束薪中に厳粛を加ふるが如きなり。是くの如くなれば、則ち其の仁術を施すこと未だ半ばに及ばずして而も全国興復す。是れ自然の勢ひなり。之を米に舂くに譬ふれば、一処を舂きて怠らざれば、則ち米粒杵を受くると否と悉く精粲に帰するが如し。投票は杵なり、邑民は米なり。一意黽勉、投票を以て的と為し、歳々善者を挙げ以て之を賞す。是れ大業を成すの要道なり。曰く、邦君民を仁すれば須らく徧く恵沢を布くべし、何ぞ其れ之を一邑に施すやと。曰く、封内に徧く恵沢を布くは、是れ水旱飢疫を済ふの術にして廃れたるを挙げ衰へたるを興すの法に非ざるなり。夫れ衰邑の民為るや、生業を勧めず、怠惰放逸至らざる所無し。故に其の衰へたるを挙げんと欲する者は必ず先づ怠惰を作す。怠惰を作すの術は挙直錯枉に在り。乃ち孝弟力田して衆に越ゆる者を挙げ、褒賞を与へて之を表旌し、以て一邑の模範と為せば、則ち怠惰変じて勤倹の民と為るは此れ理の必然なり。今、百家の邑有り、其の四十九家は勤倹富優にして、其の五十一家怠惰貧困なるときは、則ち貧を恥とせず。人情恥を知らざるは則ち無状にして至らざるは莫し。若し夫れ其の五十一家は勤倹富優にして、其の四十九家怠惰貧困なるときは、則ち貧を恥とす。人心恥を知らば則ち以て善に赴く可し。夫れ一邑中、貧しき者の富める者に勝りしならんには則ち貧に傾き、富める者の貧しき者に勝りしならんには則ち富に傾くこと、譬へば権衡の如く然り。左の重きこと一厘なりしには則ち左に傾き、右の重きこと一厘なろいしには則ち右に傾き、二厘三厘と愈々重からんには則ち其の傾きや愈々多し。是れ又必然の理なり。故に勤倹を賞して怠惰を作し、富める者をして貧しき者に勝り、貧しき者をして恥を知らしむるは、廃れたるを挙げ衰へたるを興すの道なり。若し夫れ徧く恵沢を封内に布くことは、大いに倉廩府庫を発くも、亦た一戸受くる所は僅々たる零数のみにして、何ぞ以て廃国を挙げ衰邑を興すに足らんや。独り仁君の声有りと雖も、而も興国安民の実効を奏するに至らざらんや。蓋し大いに倉廩府庫を発くは、富国猶ほ難しと為す、況んや廃国に於てをや。故に先づ之を施すに一邑従りするときは、則ち度外の財未だ多からずと雖も、然も以て徧く仁術を布くに足るなり。一邑成りて而して二邑に及ぼし、二邑従りして三邑に及ぼさば、則ち一邑の成る毎とに輙ち度外の財を益す。故に其の成功尤も速やかなり。嗚呼、直きを挙げて枉れるを錯き、一従りして而も万に至る、是れ廃国を挙げ衰邑を興すの道なり。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年01月30日 00時29分21秒
|