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カテゴリ:報徳記&二宮翁夜話
巻之八【一】眞岡県令某の属吏となる8
其の国により万一法度に聊触るゝ事あらば、法度を動かさずして仕法を折衷し、其の時処位に依つて其の宜しきを制せり。是れ仁術にして其の術尽る所なく、諸国に行はれて成功ある所以なり。君此の地に至る以来二宮に委して道を行はしめ、其の不可なるを見て然る後行はれ難しとせば吾等何ぞ一言を発せん。未だ其の道を行はずして何を以てか果して行はれざることを知る乎。令曰く、東郷の開田桑野川の新開之を試みたり。是を以て行はれざるを知れり。曰く、開墾の一事何ぞ仕法の仁術とするに足らん。夫れ仕法の道たるや恵むに恩沢を以てし、凡そ廃れたるを挙げ絶えたるを継ぎ、禍を福に転じ貧弱を振起して富強となし民の疾苦する所を除き其の安息する所を与へ、惰風を革め汚風を去り、教ふるに人道を以てし導くに勧農を以てし、奢侈を戒め節倹を示し、五倫の道を正しくして君恩の無量なることを知らしめ、永く貧困離散の憂なからしむるを以て要とせり。是等の道未だ二宮に於て施す所あらず。何ぞ一片の開田を以て道の行はるべからざるを知れりとするや。且君先年未だ此の地の命を蒙らざる時に当りて草野某と約して曰く、我二宮の良法を以て国家の有益を開き下百姓を安ぜんとす。故に公料に此の道を開き、二宮の力を伸張せしめんこと、我必ず之を尽力せんと。草野道の為に悦び、誠に使君の忠誠を感歎し、大道公行を以て君を期し、其の開業を希望せり。是れ君自ら約するものにあらずや。今は草野泉下の客となりしと雖も、目前今日の言を聞かば如何とかするや。君を以て故旧を忘れざるの信とせんや否や。我等の得て知る所にあらず。且此の道の公料に行ふべからざるを以て幕府に達せば、君の一言を以て道の廃棄斯に決せんこと疑ひなし。何となれば先年君二宮の道を試みんと言上せり。是を以て幕府仕法の試業を命じ玉ふ。其の実事未だ試業に至らずといへども、幕府の試み玉ふこと君の一身上にあり、年を経ること数年にして行ふ可らざるの道なりと言はば、誰か未だ試みずして言上せりと為さんや。然らば則ち此の一言に依て行はれざるの確証とならん。君其の道を試みずして行はれざるの道なりと定めんこと豈衆人の望む所ならんや。若し二宮其の初めより県令の属吏たらずして独立せば、何ぞ畢世艱難誠意を尽せし仕法徒らに廃棄するに至らん。初めは君の賢意に依つて道の開けんことを望み、今は君の一言に由つて道の廃せんことを哀めり。何ぞ始終の均しからざること此の如きや。是れ吾等の大いに君に望みなきことを能はざる所以なり。君少しくこれを慮れ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年08月21日 23時29分22秒
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