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カテゴリ:鈴木藤三郎
しかしこのドイツから来た機械は大切な物で、これを海へ落したら代りがないばかりか、またドイツへ注文して持ってくるには一年近くもかかるので念には念をいれ取り扱わなければならない。藤三郎が指揮をして注意をして荷あげをした。ようやく、荷物をはしけに下し、ほっととした時、社員の一人が「しまった!」と叫んだ。
藤三郎 どうしただ? 社員 社長、ミル・ローラを一本、落としちゃっただよ。
藤三郎は、次の言葉がでなかった。大変なものを落としてしまった。たとえローラ一本でもなくなれば、せっかく機械をすえつけても、運転できない。どうしても、ローラをひきあげなければならない。ローラをひきあげると言っても、内地から潜水夫を呼んだりしていては、ふた月もみ月もかかる。土着民のなかから、水をくぐるのに上手なものを選んで、くぐらせてみたが、波が荒いし、潮流がはげしくて、とてもローラの沈んでいるところまで、もぐってゆくことはできない。 海の上からのぞくと、ローラは、海底にマッチの軸のように、細く、小さく見える。そしてそのローラのまわりには、フカが、泳ぎまわっている。
吉川 これア、やっぱり、内地から潜水夫を連れて来にゃいかんなぁ 藤三郎 ふむー 社員 社長、現地労働者の中に、素潜りの上手な親子がいるみたいだよ 藤三郎 よし、すぐ手わけをして探しまい。金はいくらかかってもかまわん。 ちゃっと連れてこい。 その機械は大切なものだった。会社では工場を作ったり、鉄道をしいたり、多くのお金を使った割に砂糖の生産高は少なく、次第に金に困ってきた。早く新式のこの機械を工場にすえつけ、さとうきびをしぼらなければならない。水もぐりのうまい親子の現地労働者が探しだされてきた。父親と二人の頼もしい兄弟の青年だった。
藤三郎 金はいくらでもくれてやるから、あれをひきあげてくれんか
父親は白い歯でにっこり笑って、船の上から海底をのぞきこみ、まっ裸になると、ひらりと海へとびこんだ。海の中をまっすぐに泳ぎおりてゆく。そしてやがて浮かびあがってきた。
父親 ダイジョウブ、シンパイナイ 今度はすっかり支度をしてローラにかけるロープを握り弟がとびこんでいった。弟はもうローラの所まで行ったと思ったのに、息がきれたのか引き返してきた。 次には兄がとびこんだ。その次にはまた父、といった具合に、三人はフカなどちっとも怖れず、海底へととびこんでいく。藤三郎は、今度こそと手に汗を握っていた。
藤三郎 この親子がダメならば、内地から潜水夫を連れてくるよりほかにしゃんな いなぁ。しかしそれじゃ、今度の、さとうきびをしぼる間にあやへん。なんとかひきあげてくれんかな
何度めか、弟が海底へとびこんでいった。ぐんぐんローラに近づいてゆく。
藤三郎 もうちょっと、もうちょっと、ほら、もうひと息だ。やった! ついに、弟はローラにロープをひっかけた。すぐに父と兄が海へとびこみ、海底から浮きあがってくる弟を海の中途で待っていて、弟の身体を兄が上へつきあげる。父がまたその上に待っていて弟の身体をつきあげる。そうしないと、弟は長く水中にもぐっているので、水へあがってくるまでに息が切れてしまうのだ。三人の動作は、軽わざ師のように、ぴったり呼吸があっていた。
藤三郎 ありがとう。よくやってくれた
藤三郎は船へあがってくる弟の手を、強く握りしめた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年02月03日 09時40分29秒
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