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2018年05月16日
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大西郷の一言(『明治人物夜話』森銑三著p.22)

「(略)
 明治初年の宮中の改革は、西郷一人の仕事ではなかったが、そこには西郷の意図の最も大きく動いているものがあった。まだ一少年におわした明治天皇に、野武士のような荒削りの人々を接近せしめて、宮中に剛健な気分を漲(みなぎ)られたことなど、今日(『温古会会報』昭和28年8月発行号に掲載)から考えても、愉快に堪えないが、そうした思い切った改革は、西郷が在って、始めて成し得たものであった。旧幕臣の山岡鉄舟を推薦したのも西郷だったというが、西郷には、もとより薩長の幕府方のなどという観念はなかった。そして己れ自らもまた教育者として天皇に親近し奉ったように思われる。
 一日、天皇が馬場で馬術の御稽古を遊ばされていた時に、馬から落ちて、思わず知らず、痛い、と仰せられた。普通の役人たちだったら、飛んで行って御起こし申上げて、御怪我は、御痛みは、などというべきところだったろうが、御一緒に馬を走らせていた西郷は、そうした態度には出なかった。馬上から天皇を見下ろして、痛いなどという言葉を、どのような場合にも、男が申してはなりませぬ、ときっぱり申し上げた。
 天皇は、その後にも、この西郷の一言を、一生お忘れにはならなかった。最後の病床に在らせられた時にも、ついに苦痛をお訴えにはならなかった。西郷の教訓を、終生御服耀膺になったのである。いつのことだったか、西郷からそう教えられたと、西園寺公望にお話なされたことがあった、そうであり、西園寺さんは、それを人に語っている。(略)」





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最終更新日  2018年05月16日 06時28分19秒
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