GAIA

「今から約20年も前（1880年代）、ワシントン市の市内馬車の中で、初めてお目にかかった」

「正直のところ、時には聖書にあきあきすることがあります。私は聖書を余りにもたくさん用いすぎ、聖書について多く研究し過ぎ、考えすぎ、書きすぎます。」
10年後に内村はベルから「再臨思想」を知ることにより、聖書を新たな視点で発見することになる。

「戦争ほど悪魔的なものはありません。戦争が撲滅されるまでは、キリスト教が多少ともこの世において確立された、ということはできません。輝く勝利のいくさに伴う、かくれた悲惨事については、世界は何も知りません。私が伝道に行く田舎において、このおそるべき影響を見ます。」
内村鑑三は日露戦争で非戦論を唱えた。日本はロシアに勝利したことで、軍部の膨張、独走が始まる。そして第二次世界大戦での帝国の敗戦、解体に至る。
おそらく1000年ほどのスケールで見れば、内村の非戦論は正しかった、その預言は成就したといわれるかもしれない。日本国憲法第9条の戦争放棄も「戦争はコリゴリ」という戦争によって「悲惨事」を体験した戦後の庶民の真情に支えられたのであろう。

「どうか私のために引き続きご加護下さい。」
札幌農学校の「イエスを信ずる者の契約」には『断えず祈れ』とある。
札幌農学校2期生の宮部、内村、新渡戸、広井は『断えず祈れ』の実践者であるとともに、
「私のために祈ってください」と互いに互いの幸せを祈りあうことを重んじ、
そして成功したとき、大きな災厄を免れたときに、そうした祈りに心から感謝したのである。


内村鑑三書簡第３３７信（英文封書）
ミネアポリス　D.C.ベルあて
1905年11月1日

親愛なるベルさん
9月12日付為替同封のお手紙、有難く受け取りました。ゆくりなくも、今から約20年も前、ワシントン市の市内馬車の中で、初めてお目にかかった当時の、古き日に思いをはせました。当時私たちに親しかった人々の顔は、今やすでに大部分なく、私たちはこの朽ち、疲れ、罪に染まった世に、信仰の戦いを戦うべく、ここに残されています。時には私たちはやぶれました。しかしまた勝ちを得ました。そして私たちはついに恥辱のうちに終わらざることを、心からかたく信じます。
雑誌を予約してくださって、ありがとうございます。お読めにはならないでしょうが、毎号欠かさずお送りします。少なくも私の仕事が続いていることの、しるしにはなるでしょう。正直のところ、時には聖書にあきあきすることがあります。私は聖書を余りにもたくさん用いすぎ、聖書について多く研究し過ぎ、考えすぎ、書きすぎます。しかも仕事は、大部分一人でやります。言うに足るほどの助手もなく、しかも各派の教会は、独立伝道者にはすこぶる冷淡なるを常とします。教会はたくさん私を利用しますが、しかし私を助けてくれることは、ほとんど皆無です。私はしばしば、暗黒大陸におけるデビド・リヴィングストンを思います。この「文明国日本」にありながら、外から見れば、私はリヴィングストン同様です。しかし私は、それゆえにこそ、歓喜と感謝にあふれています。
（略）
戦争が終わって、大いに助かりました。戦争ほど悪魔的なものはありません。戦争が撲滅されるまでは、キリスト教が多少ともこの世において確立された、ということはできません。輝く勝利のいくさに伴う、かくれた悲惨事については、世界は何も知りません。私が伝道に行く田舎において、このおそるべき影響を見ます。しかも戦争の影響の最悪のものは、まだ来ていません。本年は米の出来は実に悪く、特に東北地方においてはなはだしく、来年は国をあげて、非常な窮乏に当面しなければならないでしょう。私の福音を多く迎えてくれる諸県が、凶作地方に属していますので、私自身の仕事も大打撃をこうむるだろうと心配しています。しかしすべては善きに向かいます。私たちはどうにかしてやりとげるでしょう。
どうか私のために引き続きご加護下さい。
　あなたの古い友である内村鑑三
二伸　ウィリアムズ氏夫妻にお会いの節は、なにとぞくれぐれもよろしくお願いします。


「私の尊敬する大聖書学者らは、皆一千年至福説をとっていることです。ゴーディ、オルスハウゼン、ウェストコット、バイシュラグー彼らは皆、再来(バルージャ)をば、新約聖書の基本原理として認めており、バウルやロイスのような批評学者さえ、それがキリストと使徒らとの信仰であるということに、率直に同意しています。」

「新約聖書は、この立場から眺める時に、初めて一つのまとまった完全となります。かくて我々がその教義から霊的の力をうる以前、すでに知的の平安があり得るのです。」

第９３６信(英文封書)
サラトガ D・C・ベルさん

１９１６年１０月２０日、
東京
親愛なるベルさん
９月８日付お手紙正に落手しました。詩篇第１９篇に対するアナタの意解は正にただしいようですが、しかし付け加える要があります。すなわち、ベルは内村に信仰を与えたり、と。アナタが私を古い昔ながらの信仰に呼び戻して下さったのは、約３０年に及ぶ我々の交友の間に一度二度ではなく、実に数度の事でぢた。教会と宣教師にあき果てて、私は幾度か福音的信仰をすてて、高等批評や、社会主義や、時には合理主義にさえはしろうとする危機に立ちました。しかしその度ごとに、ちょうどよくアナタのお手紙がやってきては、私を古い友単純な信仰につれ戻してくれ、かくして私は、はてしなき混乱から救われました。私は信じます。神は私を神の器として用いんがために、アナタを用いたもうたのであって、来るべき大決算の日に、もしも何かの善事が私の貸方に記入されるとしたならば、アナタはその多くの分け前を受け取られるであろうと。私はアナタを私の協力者として数えます。実にアナタは、アナタのお手紙とお祈りとをもって、ご想像以上に私を助けて下さったのです。
アナタと私とがA・J・ゴルドンの「見よ、彼来たりたもう」を同時に読んでいたことは、不思議な暗号です。あれは確かに大著述です。再臨問題を取り扱った本として、私は他のどの本よりもあの本を好きます。彼は預言者であると同時に、学者です。そしてこの学者的であるということは、えて熱狂的になりがちなこの問題を扱う上には、実に大切な事です。アナタが送って下さったあの破れ損じた「サンデー・スクール・タイムズ」によって、重大な暗示を得て以来、私はたくさんに聖書を研究しました。そして、嬉しくてならないことは、私の尊敬する大聖書学者らは、皆一千年至福説をとっていることです。ゴーディ、オルスハウゼン、ウェストコット、バイシュラグー彼らは皆、再来(バルージャ)をば、新約聖書の基本原理として認めており、バウルやロイスのような批評学者さえ、それがキリストと使徒らとの信仰であるということに、率直に同意しています。千年至福説に対する人それぞれの信ずるところはともかくとして、新約聖書は、この立場から眺める時に、初めて一つのまとまった完全となります。かくて我々がその教義から霊的の力をうる以前、すでに知的の平安があり得るのです。
ニューヨークのF・H・ラヴェル氏が、アナタのご提議に基くらしく、ブラックストン氏の『キリスト来たりたもう』と、シルバー氏の『王の帰還』とを送って下さいました。直ちに返事をしたためて書物のお礼と、同時に送られた友情溢れるお手紙のお礼とを申し述べておきました。
当方一同無事です。私は多忙です。青年は楽しげに高等学校へ通っています。強請されて野球部に参加しましたがキット野球界の花形となるでしょう。ただしチームに参加する前、我々は他の部員から、競技に関する限り、いかなる場合にも酒類を用いない、という確約を得ました。これは我々の子供を送ることによって、大きな官立の学校に与えた最初の改革であると信じます。禁酒と禁日曜試合と。ー私の子供はこの主義の上に立たねばならず、また立つでしょう。これは彼のこの世における処女闘争です。どうか彼がキリスト教的純潔の戦場において、勝利を得るようお祈り下さい。
願わくは平安皆様と共にあらんことを。
アナタの古い文通の友なる 内村鑑三