地震予知という「振り込め詐欺」
振り込め詐欺やオレオレ詐欺は、本当の息子(孫)であるかのようにウソの電話をかけ、多額のカネを騙し取る手口である。 それなら世の中には類似の行為はたくさんある。違いは、世の中がそれを「詐欺だ!」と指摘(指弾)しないだけの話である。 典型例は地震学者らで作る地震予知連(地震予知連絡会)だ。今から50年余り前の1962年、地震の専門学者らによって「ブループリント」と呼ばれる地震予知の提言書がまとめられた。 そこには「地震の観測網を整備すれば、10年後には地震予知について十分な信頼性をもって答えることができるだろう」と記されていた。 この提言書に基づき、予知連が組織され、政府は毎年数百億円に上る多額の予算を地震予知の研究に投入してきた。だが、それから50年たってわかったことは「予知の成功率ゼロ」、予知はまったくできないという事実だった。阪神・淡路大震災も東日本大震災もまったく予測できなかった。 東日本大震災の震源地である三陸海岸については、なんと地震発生率ゼロという予測を出していた。この無責任な予測が地元自治体をはじめ関係者を油断させ、不十分な備えにとどまらせたとも言える。 2012年10月、日本地震学会は北海道函館市で、この点に関するシンポジウムを開いた。4時間に及ぶ議論で、地震学者からも予知研究の見直しを求める声が上がった。 最も厳しい意見を出したたのは、東京大学のロバート・ゲラー教授で「予知という言葉は研究費獲得のためスローガンとして使われた」と指摘し、「予知計画に正式に幕を引き、新たに地震科学の基礎研究・地震防災計画をつくるべきだ」と主張した。 日本は地震国。「予知できる」と言えば、研究予算が獲得できると、大風呂敷を広げたというわけだ。でも、50年たっても成果ゼロ。これって、「予知できるよ」と相手を信頼させて、予算を騙し取る「振り込め詐欺」じゃありませんか? むろん地震学者の大半は「研究を続ければ、近い将来予知は可能になる」と心から思い、まじめに研究してきたに違いない。 だが、ずっとそう思って来たのだろうか。5年、10年とたつうちに、「いくらやっても成果は出ない。予知は困難だ。そう正直に言った方がいい」と思った学者も少なくないに違いない。一線で熱心にやっている学者ほど、そう思うはずだろう。 でも、声は上がらないかった。少なくとも強く、明快な形では。なぜか。 言わずと知れたことだ。「予知は困難」「不可能」なんて言えば、政府の予算は大幅に削られると恐れたからだ。そう想像できる。 もっとも、阪神大震災などで予知が当たらない例が頻発するにつれ「いや、予知は難しい」と、彼らは言い方を変えてきた。だが、それは言い訳、責任回避のようにも思える。それでいて「しかし、もう少し研究を続ければ、予測の精度は上がると思う」「そうする必要がある」などと付け加えることを忘れない。 責任回避しながら、予算だけは確保しようという弁明。なんとしぶとい態度か、と思ってしまう。 しかし、最近は「予知は難しい」という発言の方が圧倒的に多くなってきた。ぜんぜん当たらないのに加え、「発生確率ゼロ」と言っていた東日本大震災の被害があまりにも大きかったからだ。 イタリアで安全宣言を出した地震学者らが実刑判決を受けたことも影響しているかも知れない。 イタリア中部のラクイラでは2009年に、防災当局が群発地震で高まった住民の不安を鎮めようと「安全だ」と宣言した地域で地震が発生、300人を超す多数の死者が出た。このため、安全のお墨付きを出した地震学者ら7人が2012年10月、過失致死罪で実刑判決を受けたのだ。 一方、危険という警告が人々を不安にし、社会活動を困難にさせる恐れもある。その最大の地域が東海地区だ。 予知連は東海地震については、かねて「今後30年以内の地震発生確率87%」と高い数値を示し、政府や自治体、地元住民に警戒を呼びかけてきた。 このため、中部電力の浜岡原発は東日本大震災後に、当時の菅首相の「要請」で停止させられ、今も莫大な地震津波対策の投資が行われている。確かに「イザということを思えば、安全には注意して注意しすぎることはない」という理屈は成り立つ。 しかし、政府は1978年に大規模地震対策特別措置法(大震法)を制定した。予知連が「地震が来そうだ」と予測を出すと、警戒宣言を発令する仕組みだ。発令があれば、交通規制など社会活動は大きく制限され、1日1700億円もの経済的影響が出ると試算されている。 地震予知が正確なら、そうした措置は必要だろう。だが、昨年7月の政府の有識者会議で東海、東南海、南海の地震を調べている調査部会座長の山岡耕春名古屋大学教授(地震予知の専門学者)は「東海地震を特別扱いする根拠はない」と話している。 現在の地震予知の水準も「不確実ながら地震の恐れが普段より高いかを観測から判断可能だが、地震の規模や起きる領域の予測は困難」な状況だという。 まるで禅問答のようだ。少なくとも科学的な表現とは言えまい。要するに、地震学の水準は今も低く、予知連はヨチヨチ連のまま。「当たるも八卦、当たらぬも八卦」に毛が生えた程度の段階なのだ。とても警戒発令を出して、1日1700億円もの損失を発生させるわけには行かない。 この際、地震研究は基礎研究を続ける程度に圧縮し、残りは地震災害を極力少なくする設備などの予算に振り向けた方が賢明だろう。以前ブログで書いたように、イザ津波と言うとき避難できる高さ20数メートルの避難ビルなどを一定の距離の間隔で築くとか。 東日本大震災の発生確率ゼロと予想した地震学者を、イタリアみたいに実刑を与えるのは酷かも知れない。だが、予算を削ったり、教授のポストから降格させるなど何らかの責任をとらせることは必要ではないか。 日本は学界も役所の官僚も失敗しても一切責任をとらず、何もなかったかのように出世させてしまう。戦前から続く、この無責任体制が日本を危うくさせてきた。地震予知に失敗するどころか、地震学者は振込み詐欺に近い発言をしてきたのだから、なんらかのせきにんをとらせるのは当然のことだ。