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カテゴリ:絵本
「つみきのいえ」文/平田研也 、 絵/加藤久仁生、 発行/白泉社
【あらすじ・内容】 おじいさんがたった一人で住んでいる、海に浮かんだように見える奇妙な小さな家。子ども達は既に独立し他所で家庭を築いています。おばあさんは3年前に亡くなりました。釣った魚と飼っている鶏の玉子、屋根で育てている小麦、そして足りないものは近くを通る行商人の船から買い、自炊をして暮らしています。 この町は少しづつ海面が上昇していて、床上に浸水すると今の家の上に新しい家を積み重ねて作り、上へ上へと移り住んできたのです。 ある冬の日、部屋に浸水している事に気づいたおじいさんはまた屋上に新しい家を作り始めます。ところがある時、うっかり工具を取り落としてしまいます。潜水服を着込んで、海の中へ探しに行きます。工具を見つけて周りを見回すと、そこは昔家族みんなでおばあさんを看取った部屋でした。 おじいさんは、そこからさらに下へと潜っていき、以前住んでいた家を一つ一つ見て回ります。 ある家に住んでいた時は、町でカーニバルがありました。子ども達が孫を連れて集まり、おばあさんは美味しいパイを焼きました。 ある家では、一番上の娘がおばあさんが設えたドレスを着て花嫁となって巣立っていきました。 ある家では、飼っていた子猫がいなくなり、子ども達が悲しみました。子ども達は子猫に書いた手紙を瓶に詰めて流しました。 ある家では、おじいさんとおばあさんに最初の子どもが生まれました。どの家にも思い出が残っていました。 そしてとうとうおじいさんは一番下の最初の家までたどり着きました。 この作品は、作者のお二人が作成した短編アニメーションを絵本にしたものだそうである。 作品は、2008年に「アカデミー短編アニメ賞」を受賞したという。 一読して、アニメーションで見たら美しいだろうなと思う。 この絵本は赤ちゃんにはちょっと無理で、幼稚園時あたりから親子で読むことが出来るだろう。 そして多分、最初はお子さんよりも親や祖父母の方が、 自分の過去の思い出と重ね合わせながら読むのではないだろうか。 幼い子供が関心を持つとしたら、どんな感じだろう。 やはり、その年齢なりに水の上に浮かぶ家に生活することを想像し、 どうしてそうなったかを想像し、水の下の家がおじいさんにとってどのようなものなのか、 あれこれ考えるのではないだろうか。 感性豊かな子どもと、現実的で論理的な傾向のある子では、随分考えることも違うだろう。 また、興味を持つものについても随分違うだろうと思う。 もしも兄弟姉妹に読み聞かせる機会があれば、この本への反応から、 わが子の個性の違いや心の成長の度合いを知ることになるかもしれない。 私は、親が子供に絵本を読み聞かせる意味の一つは、絵本を介した子どもとのやりとりにより、 親が子供の心を理解することにつながることではないかと思っている。 そして、絵本を通してのコミュニケーションの中で、 自分の心模様について気付くのではないだろうか。 懐かしい思い出の積み重なったその家から、このおじいさんは去ろうとはしない。 多分、かつては近所に沢山あった家に住んでいた人たちにとっても、 水に沈んだ家は思い出の詰まった家だっただろう。 しかし、そこに住んでいた人たちは次々と去っていった。 なぜ去っていったのかは、それぞれの事情があるだろうが、 中には身を切られるような思いで去った人も多いのではないか。 この本を読みながら、私は震災や原発事故などで故郷を去った人たちを重ね合わせてしまった。 また、どんどんと水が増えていく状況に、昨今の温暖化による豪雨被害など、 様々な環境の変化を思わずにはいられなかった。 多分この絵本が作成された元々の意図は、 人が生きることの様々な意味を考えてもらうものだったのではないかと想像する。 様々な人生経験を重ねて老いてゆき、やがて一人暮らしになったとしても 豊かな楽しい思い出の詰まった家に住み続けることは、他人が思うほど孤独でもなく、 むしろその場所から離れてしまうことの方が孤独が深まることがある。 それは、一人一人の考え方や大切なものが違うから、これがいいとか悪いとかの話ではない。 人は、自分が納得できるように生きるのが一番いいし、 その場所で見つけられる楽しみや喜びを発見し続けることが、 生きることではないかと思っている。 そしてまた、この絵本をじっくり見ていると、様々なものが丁寧に書き込まれている。 それを一つ一つ見ていると、本当に色々なことが連想される本で、 多分、絵本を開くたびに新たな発見があるのではないだろうか。 その価値を十分に理解したうえで、私はこの世界への大きな警鐘を鳴らしているように感じてしまう。 ひょっとすると芸術に携わる人たちは、肌で過去・現在・未来について、 凡人が感じることのできない何かを受け止めて無意識に表現してしまう人たちなのかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020年01月28日 13時21分09秒
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