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カテゴリ:読書
「ユーカラおとめ」泉ゆたか
「ユーカラを書き記すことは、私が生まれてきた使命なのだ」 絶滅の危機に瀕した口承文芸を詩情あふれる日本語に訳し、今も読み継がれる名著『アイヌ神謡集』。著者は19歳の女性だった。 民族の誇り。差別との戦い。ユーカラに賭ける情熱。短くも鮮烈な知里幸恵の生を描く、著者の新たな代表作! 「いつまでも寝込んでいるわけにもいきません。私には時間がないんです」 分厚く腫れた喉から流れ出した自分の言葉に、幸恵ははっとした。 私には時間がない。 そうなのか? 思わず胸に掌を当てた。満身創痍の身体の中心で、心臓は未来へ駆け出す足音のように勢いよくリズムを刻んでいた。 (本文より) 著者について 1982年神奈川県逗子市生まれ。早稲田大学卒、同大学院修士課程修了。 2016年『お師匠さま、整いました!』で第11回小説現代長編新人賞を受賞し小説家デビュー。2019年『髪結百花』で第8回日本歴史時代作家協会賞、第2回細谷正充賞を受賞。 近著『おばちゃんに言うてみ?』『君をおくる』ほか、「お江戸けもの医毛玉堂」シリーズ、「お江戸縁切り帖」シリーズ、「おんな大工お峰」シリーズ、「眠り医者ぐっすり庵」シリーズなどがある。 k-nanaさんのブログでこの本のことを知り、図書館で借りて読んだ。 知里幸恵のことはもちろん知ってはいたし、金田一京助のアイヌ語研究との関係もざっくりとは知っていたが、この本を読んで目から鱗のような気持ちにもなった。 当時の日本人のアイヌの人たちに対する見方や考え方は、金田一京助も同様だったのだ。 また、どちらかというと女性的にすら見える金田一京助は、しっかりと男尊女卑的考え方の持ち主でもあったということも。 この作品がどのくらい史実に忠実なのかわからないが、挿入されているエピソードの数々は決して創作ばかりではないだろう。 アイヌ民族であり女性である知里幸恵は、そのたぐいまれなる才能や知性が、さらに自らを苦しめることにもなったように思う。 たった二十歳そこそこの女性がその重圧や葛藤と闘い、生来の弱い体が蝕まれていった過程は、 読み進めることが息苦しくなるほどだった。 しかし彼女は、体は傷つき命を削っていても、心は常に健全でアイヌ民族の誇りを失うことなく、 胸に渦巻く怒りや憎しみや苦しみを、美しい言葉に昇華することができた。 そこに人間としての美しさを感じずにはいられない。 興味深かったのは、金田一京助の妻の静江と中条百合子(のちの宮本百合子)との関りである。 この二人と幸恵の三人の女性の姿は、当時の女性の生き方を表してもいる。 泉ゆたかさんの作品を、もう少し読んでみたくなった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年09月18日 09時31分39秒
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