演劇集団36連射第5回講演「待合室」
19:00から、南魚沼市民会館で催された“演劇集団36連射第5回公演「待合室」”を観に行った。チケット当日\1,300也。 のっけから謎めいた出だしで、酒場の女主の独白から始まる。そこへどうやら東南アジア系のチンピラふたり組が現れる。どうやら酒場の主の知りあいを探しているようだ。なにやらマフィア間のトラブルの匂い…。件の男の所在を聞き出そうとするが、知らぬ存ぜぬと言い通す女主人に業を煮やし、チンピラふたり組みが暴れだそうとするところへ、おたずね者が現れる。そこで乱闘が始まった。このアクション・シーンは殺陣もさまになっていて、役者同士の息が合っていて見ていて気持ち良かった。おたずね者の携帯電話が鳴り出して、チンピラふたりと男はいち時休戦…とたんに和やかな雰囲気になる。『?』と思って観ていると、実はそれは舞台の稽古の現場だったのだ…というオチ。なかなか“魅せる”演出の凝らされたシーンだが、前フリにしてはちょっと時間が長すぎたかな?酒場の女主とチンピラふたりの押し問答は、同じ台詞が延々と続いて観ているこちらとしてはちょっとダレてしまった。 おたずね者役の俳優にかかってきた電話は、父親の急病を告げるものだった。心臓疾患で倒れ、救急車で運ばれたと知らされ、男は父の運ばれた病院へと向かっていく。 暗転にスポット・ライトが当っていたっけ…?記憶が定かではないが、まぁそんな感じの舞台上で女の子がひとり独白を始める。自分と両親のこと、両親が孤児を引き取る養父母をしていたこと、母親の死に関して。 照明が灯り、舞台転換。病院の待合室。女性がひとり、なにやら気が気でない様子でいる。彼女もまた、倒れて病院に運ばれた父親の娘だった。続いて現れる“二枚目”。“二枚目”とは彼のニックネームらしく、役者さんには申し訳ないのだが、とても“二枚目”と呼べるご面相ではない。そこが笑わせる肝であるらしく、『二枚目がこんなんなっちゃって…』というギャグが用いられていた。合計5人の兄弟姉妹が登場するのだが、次男と末娘を除いた3人はニックネームで呼ばれる。長男が“吉田”、長女が“マメ子”三男が“二枚目”。実名で呼ばれるのは、次男の“しんご”(字忘れた。“しんじ”だったかも?)と末娘の“パトラッシュ”。“パトラッシュ”が実名というところが…(笑)?! 物語の第一の山場は、仲の悪い長男と次男が対面する機会を迎えて、他の兄弟姉妹たちが右往左往する場面。なんとかふたりの顔をあわせないようにと、他の兄弟姉妹たちがいろいろな策を講じる。長男と次男に対する弟妹たちのピントの外れた言葉や態度。このあたりは役者の演技も台詞もその意を得ていて、笑わせるところできちんと笑わせられていた。ただ、それだけ心配しいろいろ画策してふたりを会わせないようにしていたわりには、いざふたりが出会ってみると、思った程の波乱も無く拍子抜けの感は否めなかった。父親の危篤の際にも失われない兄弟間の確執…というシチュエーションはとても興味深いため、それだけに残念に思った。 劇は概ねコメディを目指しているようで、重たいテーマを扱っているにも関らず軽妙な調子で進んでいく。難を言えば、軽妙に過ぎたというところか。父親の危篤に関しても、兄弟間の確執に関しても、本気で懸念している様子をあまり感じさせなかったのは惜しい気がする。父親が急病で倒れたという、非日常感、切羽詰った雰囲気が感じられなかったのだ。 長兄次兄の確執に一応の決着がつくと、ストーリーの流れはそれぞれの兄弟の胸にわだかまる“血縁”への拘泥りへと移っていく。養父母と血の繋がりがないことに対して『誰だってひっかかりはあるよっ!』と叫ぶ“二枚目”の台詞で、目の前で起きているできごとの意味が“すぅ”っと胸に落ちるように飲み込めた。前述したように、次男の“しんご”は里子で、末娘の“パトラッシュ”(本名)が実子であるというのは、かなり無茶な気がするがミスディレクションとしての効果を狙ったものだろうか。寄せ集めの里子たちとひとりの実子が、屈託の無い会話を交わし諍いをする様子で、彼らが共に過ごした時間の積み重ねと両親の愛情を感じることができる。ただし、養父母との血の繋がりの有無に拘りがあるのであれば、それらは兄弟間の関係にも影響を及ぼすのではないか?との疑問がわいてくるのも否めない。逆に言えば、寄せ集めの血の繋がらない兄弟が仲が良ければ良いほどに、養父母との関係もすでに受け入れられていてしかるべきではないか?と思うのだ。このあたりはすごく微妙な心の問題で、脚本や演出に綱渡り的なチャレンジを与えるテーマだと思う。再演があるのなら、そういったことを踏まえてさらに良いものを創りあげてもらいたいものだ。 物語のラストは、重篤な危機を迎えた父親が手術のため輸血を必要とし、4人の里子たちが皆同じ血液型で各々の血を提供する。看護師の『これで皆さん、血の繋がった兄弟姉妹になりましたね』という台詞でオトす。物語の締めくくりとして判りやすいエピソードなのだが、オレには心に訴えてくるものがあまり無かった。それぞれの血液が父親の体内に入るということは確かに象徴的ではあるが、即物的に過ぎてそれだけではドラマとしての成立は難しいと感じる。それらを支える各々の気持ちの変化をもっと観てみたかった。5人の兄弟姉妹たちのお互いへの想いが変わる様をもっと感じたいと思ったのだ。 観終って感じたのは、演じるべき狙いが非常にはっきりとしていて、俳優たちがそれらに向かって全員で心をあわせて果敢に演じていることが伝わってきたこと。役者たちが各々の役どころを充分に把握して、楽しみながら演じていた。演じることのみではなく、この「待合室」という芝居を役者さんたち全員が気に入っており、それゆえの数々の名演があったのだと思う。 舞台が終わり、それぞれの役者さんたちに声をかけさせてもらった。特に“二枚目”を演じた役者さんは、前回の“エリカ迷宮(ラビリンス)”の時と続けての公演。ファンになっちゃった。ステージ上の雰囲気を和らげるムード・メーカとしての存在は劇そのものを引っ張る力があると感じるのだ。 看護師(女性)と回想シーンでの父親役を演じた役者さんと記念撮影。他の役者さんたちとも写真を撮らせてもらいたかったのだが、時間が無くで残念だった。身近な人たちが、これだけの舞台を創り上げているということに、なんだか誇らしいうれしさを感じながら家へと車を走らせた。