カテゴリ:映画・アニメ・音楽
朝ドラ「ブギウギ」欠かさず見てます。
趣里は、 美人というわけじゃないし、 とくに歌唱力に長けてるわけでもないけど、 さすがにランちゃんと水谷豊の血を引いてて、 物語を引っ張るだけの説得力を感じるし、 不思議と惹きつけられる魅力がありますね。 東京出身なのに、 大阪人っぽいド根性もよく出てます。 恋愛展開になってからは、ほのかに色気も漂ってる。 ドラマの内容も申し分ないです。 途中で脚本家の交代もあったらしいけど、 とくに大きな違和感もなく展開してます。 ◇ わたしはもともと、 笠置シヅ子の歌が好きだったので、 ベスト盤などはよく聴いてましたが、 生い立ちなどについては、 今回のドラマを見てはじめて知ったことが多い。 服部良一とか、 吉本興業の息子とかは、 てっきり大阪で出会ったと思ってましたが、 そうじゃなかったんですね。 まあ、大阪人脈みたいなものが、 東京の芸能界にもあったのでしょうが。 ◇ わたしが以前から好きだった曲は、 「東京ブギウギ」とか「買い物ブギ」とかじゃなく、 まさに今回のドラマで取り上げられた曲。 すなわち「ラッパと娘」「アイレ可愛や」でした。 この2曲は、楽しいというより、 不穏なほど過激なエネルギーに満ちてて、 それこそが魅力だったのです。 どこかしら戦争の雰囲気も感じていた。 今回のドラマを見て、 それらが、ごく初期の曲だったことを知った。 スキャットだらけの「ラッパと娘」の歌詞を、 服部良一みずからが書いてたのも知らなかった。 … 最初のヒットソングの「ラッパと娘」は、 笠置シヅ子の曲のなかで、いちばん過激に感じる。 わずか3分ほどの曲ですが、 その後の歌謡曲の様式には全然収まってなくて、 とくに後半の展開は異常なくらいに凄まじい。 スウィングジャズというより、 むしろモダンジャズみたいにラリった感じがあり、 笠置シヅ子の日本語の発音も暴力的かつ不埒で、 人心を惑わすような力を感じさせるヤバい曲です。 国の検閲を受けても無理ないと思うほど、 いかがわしくてクレイジーな音楽。 初期の曲のほうが、戦後の作品以上に過激です。 戦前のモダニズムの極致だったかもしれない。 ◇ ちなみに、 トミー・ドーシーの「ブギ・ウギ」が、 米国でヒットしたのは1938年のこと。 笠置シヅ子の「ラッパと娘」はその翌年です。 服部良一によるブギウギの受容は驚くほど早かった。 追記:「ラッパと娘」は4ビートのスイングなので、8ビートのブギウギではないそうです…。 米国では、 40年代にブギウギブームがあり、 50年代にロックンロールが誕生しましたが、 日本でも、 40年代に笠置シヅ子がブギウギを歌い、 50年代にロカビリーブームが起こってる。 つまり、 米国と日本のタイムラグは、ほとんど無いに等しい。 そこから考えても、 「日本のロックははっぴいえんどから始まった」 なんてエセ神話は、ちゃんちゃらおかしいのです。 もちろん、加藤和彦も細野晴臣も、 そのことをよく分かってたからこそ、 服部良一をリスペクトしたのでしょうが。 分かってないのは本人たちじゃなく安易なフォロワーってこと。 ◇ 当時、映画評論家の双葉十三郎が、 笠置シヅ子のパフォーマンスを絶賛してたらしい。 しかも、それはまだ「ラッパと娘」が発表される前。 帝劇でSGDの「カレッジ・スヰング」を観たらしく、 "マーサ・レイやアリス・フェイをも凌ぐ!"と言って、 エラ・フィッツジェラルドのような黒人のスウィング感が、 日本人にも可能かもしれない…と希望を述べてます。 いうならば、米国の白人より、 笠置シヅ子のほうが黒人のフィーリングに近いってこと。 https://fujinkoron.jp/articles/-/10212?page=3 Martha Raye "You'll Have to Swing It" Rhythm on the Range 1936 Martha Raye "What a Rumba Does to Romance" College Swing 1938 Alice Faye "Alexander's Ragtime Band" 1938 ◇ さて、ドラマのほうの内容ですが… すでに宝塚の小林一三らしき人物も登場して、 前作「らんまん」と重なる部分もありました。 さらに、3年前の「エール」に描かれた、 古関裕而の戦時歌謡の話なども出てきました。 年下の恋人が出てきてからは、 6年前の「わろてんか」にも重なる内容になってる。 要は「宝塚・松竹・吉本」という、 関西で生まれた戦前の三大興行すべてが絡んでるのよね。 笠置シヅ子は、 宝塚に落ちて、松竹に所属し、 服部良一に見出され、吉本の御曹司と恋愛した。 まさに近代の関西大衆芸能を体現したスターなのです。 ◇ わたしは、 あまり「わろてんか」をちゃんと見てなかったけど、 人物の対応関係はたぶん次のようになるはず。 北村てん(葵わかな)=村山トミ(小雪) ※モデルは吉本せい。 伊能栞(高橋一生)=坂口(黒田有) ※モデルは林弘高。 北村隼也(成田凌)=村山愛助(水上恒司) ※モデルは吉本頴右。 加納つばき(水上京香)=福来スズ子(趣里) ※モデルは笠置シヅ子。 なお、 今回の「ブギウギ」はわりと史実に忠実ですが、 吉本せいをモデルにした「わろてんか」は、 かなり史実をアレンジしてたようで、 実在の人物とはだいぶ違っていたみたいです。
◇ 今回のドラマは、 主人公が早い段階で社会的な成功を手にして、 すでに淡谷のり子にも匹敵するスターになっています。 なので、物語は、世間的にも知られた話になってる。 笠置シヅ子は、 戦後に頂点へ昇りつめますが、 その後は美空ひばりが登場することもあって、 あっという間に斜陽になるはずですね。 そう考えると、 どのあたりの時期が、 物語の落としどころになるのかも気になります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.04.05 07:34:08
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