多和田葉子さんの本
日本語の本を読む機会はとても少ないです。日本に出かけることが少ないし、たとえ出かけても、興味深い本を短時間で探し出すのはむずかしいし、そもそも本は文庫本以外は重いので、持って帰る荷物の優先順位では、食料品より下位におかれてしまいます。それだけに、Ameliaさんからいただいた贈り物小包の中に【楽天ブックスならいつでも送料無料】献灯使 [ 多和田葉子 ]価格:1,728円(税込、送料込)を見つけたときには、歓喜してしまいました。わたしが多和田さんの作品を好きなことが、どうしてAmeliaさんにわかったのかしらと一瞬思いましたが、そういえば最近の記事で、最後にちらっと多和田さんの本を買いたいと書いたことを、一晩寝てから思い出しました。わたしもボケてるねえ。そんな小さなことを覚えていてくださったAmeliaさんのお心遣いがとてもうれしいです。いただいて、すぐに読み始めました。わたしは一人で食事をするときには、いつも本を目の前に立てかけて、本を読みながら食べます。だから、トーストからチーズが落ちてしまったり、ジャムがたれたり、たいへん。でも一人なら、誰も見てないから大丈夫(あとで掃除がたいへんですが)。パンを仕込んでいる間、オーヴンで焼いている間も読みました。表題の「献灯使」をはじめ他の収録作品も、いわばフューチャーフィクションとでもいいましょうか、数世代後の日本、鎖国をし、コンピュータも自動車もなくなり、食物を国内で自給しながら生活する日本を描いています。自給だから、農業がほとんどできない東京は貧しくなり、農業が盛んな沖縄や東北が豊かになるわけ。それでもそこに生活する人々はみんなお互いにやさしくて、社会は今よりもずっと人間的で、物質的には貧しくても、もしかしたら今よりも幸せのようにすら、感じられてきます。あり得ないようなフィクションなのに、もしかしたらあり得ると思えるほど、リアルです。この本は、現代の社会、政治、環境、習慣の風刺であり、批判でもあるのですが、批判が表面に出ているのではなく、言葉のたくみさ、ウイット、ユーモアにあふれた物語の底から感じられるだけです。読みながら、アハハ、アハハと一人で笑ってしまうことがしょっちゅう。だっておかしいんだもん。いつまでも終わって欲しくないような、面白い物語。どこからこんな面白いアイディアが浮かぶのでしょう。アイディアが浮かんだだけではすぐれた作品にはならないでしょうが、多和田さんの文章のわざにかかると、それがすばらしい作品として実を結ぶのですね。あんまり面白いので、BFにも伝えたいけれど、内容をこうやって話すだけでは何もわからないでしょう?やっぱり自分で読んでもらわないとね。ぜひ、ぜひドイツ語版でも出していただきたいけれど、だめかなあ。日本独特の事情とか、日本に住む人でないとわからない言葉のユーモアとかがあるから、こういうとき翻訳小説はもどかしいです。あ、そういえば、多和田さんの作品が好きと書いたブログ記事で、村上春樹の本「ダンス、ダンス」のドイツ語版を読みますと書きましたが、その後読み終わりました。やっぱり、予想どうりというか、感激はしませんでした。こので本もシュールで非現実的なことが起こりますが(羊男とか幽霊みたいなのとか)、それが出てくる説得性に乏しいし、主人公の「僕」の考え方や生き方も一貫性に欠けているし(世捨て人みたいなこと言ってるくせに、やたら世俗的)。所々に凡人では書けないようなむずかしい、込み入った、知識人ぽい文章が出てきて「ホホー」とか思いましたが、それ以外には感動も、面白かった感もありませんでした。本は好みの問題で、どれが上とか下とかは言うべきだとは思いませんが、わたしは多和田葉子さんの作品の方が好きです。言葉の選び方も文章も、プロットも好きです。「犬婿入り」以来ずっと。すばらしい本を選び、プレゼントくださったAmeliaさん、本当にありがとうございました。