福島からの手紙
最近、福島県にお住まいの女性から、次のようなメールをいただきました。ご本人の承諾を得て、下にコピーします。事故現場周囲にお住まいのかたがた、とくに小さなお子様をおもちのご家族が、不安を抱えながらも脱出する道もなく過ごされていることに心が痛みます。少しでもお役に立てればと思って努力はしているのですが・・・。「Solar08さん、こんにちは。長いこと、ご無沙汰しておりました。いろいろとご心配いただいていることと思いますが、3月の大地震以来、こちらでは大変な状況が続いています。今日は、特に福島県の子どもたちの置かれている危機的な状況をお伝えし、また可能な中でお力添えをいただきたく思い、メールを書き始めました。長くて申し訳ありませんが、どうか読んでください。私たちの住んでいる三春町は原発から50km足らずの位置です。地震の翌日から、私たち家族は福島を離れて大阪まで行き、その後は東京の実家に避難していました。ここ3週間ほど、中2の娘の学校のことで家に戻ってきています。福島県ではあきれたことに4月6日に学校が始まり、始めていながら一方でようやく校庭などの放射線量を計測し、あちこちで驚くべき数値が出てきました。4月初旬の時点で、原発から20km圏内はすでに避難区域でしたから、計測調査はそれ以外の、全く避難勧告の出ていない地域のすべての公立校約1600校で行なわれました。その結果、76%の学校において、法律で「放射線管理区域」に設定されるべき0,6マイクロシーベルト/h の数値を超えており、さらに、そのうちの約3分の1の学校(全体の約20%)では放射線業務従事者の許容値である2,2マイクロシーベルト/ hさえ超えていることが分かったのです。法律では、毎時0,6マイクロSv(正確には3ヶ月で1,3ミリシーベルト=1300マイクロシーベルト)を超える場所は「放射線管理区域」として標識をたてて管理することが決められており、また労働基準法ではこの「放射線管理区域」における18歳未満の青少年の労働を禁じています。職業的被曝をする人にはこの許容値を超えないようにするために、個別の被曝管理が義務づけられています。しかし、そのような法律に全く言及することなく学校は始まり、さらに文科省は4月19日、これまでの安全基準値を20倍引き上げて成人にも子どもにも適用し、毎時3,8マイクロシーベルト以下の学校では制限なしで屋外活動さえも許される、という通知を出しました。その翌日には、この通達は県内の隅々まで行き渡り、実際に子供たちが外でマスクもしないで遊んでいるのです。そんな校庭で遊べば、土ぼこりを吸い込んで子供たちはよけいに内部被曝をしてしまいます。何故わざわざこんな愚かしいことまでやってくれるのでしょうか。子供たちが走り回っている姿を見ると、とても冷静ではいられません。その後の対政府交渉などから、この年間20ミリシーベルトを学童に適用という決定において、国側のいずれの専門家の容認もなく、数値をめぐる審議の議事録さえも残されていない、というようなことが明らかになってきました。文科省は原子力安全委員会の進言を元に決めた数値であると言っていますが、原子力安全委員会は、「委員会の中に、20ミリシーベルトを容認した専門家はいない、数値はこれから検討して決める」などとトボケたことを言っています。国会でも文科省に数値撤回を求める動きが出てきており、国内外の専門家グループ、日弁連会長、日本医師会ほか、多数の抗議声明が出されています。しかしまだ、文科省はこの数値を撤回しません。20ミリSvという基準値を下げれば、二つの中核都市である福島市と郡山市を避難指示区域にせざるを得なくなり、それが困難だからです。だから国は、とんでもない数値が出ているにも拘らず、「嫌な人は自主避難をどうぞ、補償はありません」という態度を決めこんでいます。私は、まもなく東京の実家にとりあえず娘と移る予定ですが、娘は学校が大好きなので、まだ納得させられません。なぜ自分だけ安全なところに行くのか、みんなはその後どうなるの、と訊かれれば、私にも答えはありません。私たちの町は近隣の町より比較的、線量の数値が低いので、勝手に安心しているような雰囲気があり、娘の友達も誰も動きません。両親とも地元出身という方が多いですから、実際に自主的に避難できるのは、幼児を抱えていてどうしても心配だったり、県外に母親の実家があるような人たちがほとんどです。これは県内のどこの市町村でも同じような実情です。ドイツの感覚からすれば理解しにくいことでしょうが、福島の人たちにとって代々住みついてきた土地を離れることは、並大抵のことではありません。ましてや何の補償もなしに家も仕事もスッポラかして自主避難するなんて、とてもできることではありません。県の姿勢も理解できないところです。県がリスクアドバイザーとして招聘した長崎大の医学者は、「年間100ミリシーベルトでも安心、問題ない」という講演を県内各地でして回っています。リスクがきちんと公の立場から伝えられないので、皆の認識がバラバラになっていて、危険や防護に対する認識が住民の間で共有できない状態になっています。原発はまだ何ら収束の見通しすら立っていないのに、大地も海もこんなに汚染されているのに、あたかも通常化に戻そう戻そうとしているかのようです。私たちも、もう本当に疲れてしまいました。長々と書いてしまいましたが、原発自体の惨状もさることながら、地域住民に対するこのあまりに酷い対応、無策、誠意のなさに、私たちはもう一つの絶望を見る思いです。どうか、Solar08さんのドイツ、ヨーロッパでのネットワークの中で、この子どもたちをめぐる問題をメディアに流していただけないでしょうか。もちろん私たち大人も大変なのですが、今は福島の子どもたちに焦点をしぼって国内でも運動が大きくなってきています。あらゆるネットワーク、団体、人々とリンクして、とにかく国がこの問題をもはや絶対に先送りできないようにしたいのです。もうあまり悠長にしてもいられません。子どもたちは、日々被曝中です。どうか、お力を貸してください。お願いします。私の方で探せる情報の提供、状況説明などは、できる限り何でもいたします。ご存知かもしれませんが、取り急ぎ、見てほしいサイトを送ります。a) これまでの経緯について分りやすい解説。京都精華大学 細川先生、ラジオ放送30分。http://www.youtube.com/watch?v=Jf-fcdKFu4Yb) 福島県でお子さんをお持ちの方々へ、教育関係者へ。(東大研究員の方からのメッセージ)http://fukugenken.e-contents.biz/information01c) 福島老朽原発を考える会(フクロウの会)http://fukurou.txt-nifty.com/fukurou/d)日弁連 会長声明 http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/110422_2.htmle) 玄侑宗久氏のブログ、 私たちの三春町在住の芥川賞作家、僧侶。http://yaplog.jp/genyu-sokyu/daily/201104/13/4月13日の文章が印象的。f) 武田邦彦、中部大教授のブログhttp://takedanet.com/学校に20ミリシーベルト撤回を求めるオンライン署名も始まっています。ぜひ、ご協力ください。(署名)http://www.foejapan.org/infomation/news/110509.html※国際署名は下記から。The Second Nuclear Emergency in Japanhttp://fukushima.greenaction-japan.com/archives/41どうか、よろしくお願いします。」こういうお手紙でした。