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第十章
ニューヨークは出張で幾度となく訪れたが、そこで生活する事はまた意味が違う。 桃華にとって、なにもかもが新鮮で毎日が楽しかった。 東京のような雑踏と喧騒に 包まれた街だけに、異邦人としての寂しさも感じられず、むしろ街の持つエネルギーに 圧倒されていた。
週末になると、セントラルパークでジョギングした後で、遅い朝食をとるのが習慣と なっていた。 何処を歩いても、公園の緑と周囲の建物が絵葉書のような、美しさをもって見える。 園内には、動物園・スケートリンク・自然保護区・湖などがあって、一日居ても飽き なかった。
桃華は射撃の腕をかわれ、SWAT の一員としての訓練を受けた。 SWAT ( SPECIAL WEAPONS AND TACTICS ) は特殊火器戦術部隊であり、 狙撃銃としてのライフルはレミントンM700、M24などのボルト・アクションが 主であった。SWATのメンバーは、警察官の頑強な男達で、桃華の2~3倍もある体格を している。
テロ行為がどうも近々、アメリカで行われる可能性があると。 日本の外事三課に問い合わせてみたが、彼等は情報を全く掴んでいない。 CIA 内部では、日毎緊張感が高まっていた。そんな時、
( 桃華、相談があるのだが・・・ )
と、ブラウンに呼びだされた。彼の話では、五洋商事のニューヨーク支社が、テロリスト 向けの火器・銃器の受け渡し窓口になっており、その支社長飛鷹の情婦が梨華であると。
( 桃華は、確か梨華の姉さんですよね。シカゴ交響曲楽団との共演で、彼女は今アメリカ にいる。なんとか、彼女と接触して、この情報の物的証拠をとるように、依頼して くれませんか? )
今更との思いが先だったものの、これで武器ルートが潰せるとの、ブラウンの説得が功を 奏した。梨華の滞在している、フォーシズンホテルへと桃花は向った。
ロービーにいる、梨華はひと目でわかった。
( あっ、おねえちゃん~ !! )
梨華も桃華を見つけ、手を振って駆け寄ってきた。しかし、桃華の心の中のわだかまりが、 なぜか素直にその声に応えることが出来ない。ぎこちなく挨拶を交わし、早速本題に入った。
桃華の話を静かに、最後まで聞いていた梨華は、
( 私はずっと、おねえちゃんに逢いたいと思っていたのよ。でも叔母さんが、逢わない方が いいと、いつも言っていた。そんなに自分が嫌われているのかと、すごく悲しかったの。 だから、おねえちゃんが、逢いたいと電話してきた時、嬉しくてしょうがなかった・・・ でも、こんなことでしか、私に逢いにこないわけね。 )
( こんなこと?! 何言っているよ、テロを根絶する為の、正義の戦いでしょう! )
( 結論からいうね。はっきりお断りします。飛鷹が何をしてようが、関係ないわ。彼が、 私にとって大事な人だということ以外。その人を貶めるようなことに、なぜ私が手を 貸せるわけ~?!)
( 何を、馬鹿なこと言って・・貴方は単に、飛鷹の愛人に過ぎないでしょうが!!)
( あのね・・最近、やっとママの気持ちがわかったの。自分の心のままに、愛のままに 生きるということは、この世の中では確かに難しいわ。でも、それをなしとげた ママは、すごいと思うの。 )
( パパをあんな形に追いやって・・そして、私たちまで、バラバラにして。そんな 自分勝手な、母親なんて・・・・ )
( 違うわね。ママはママの人生、私たちは私たちの人生。だから、どんな状況においても 周囲に惑わされず、自分を貫いて生きていくことが、大事じゃないのかしら?! )
お役に立てなくてごめんねとの言葉でしめくくり、梨華はその場を立ち去った。 怒りと憎しみにたぎった桃華の視線を、背中に受けながら・・・・
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