「米軍がパラシュート降下」は産経が流した虚報&捏造
先日のエントリで、産経新聞の報道を鵜呑みにして、仙台空港復旧のため米軍の空挺部隊が降下したと書いてしまいましたが、この点についてdenさんから空挺降下はしていないのではないかとの指摘がありました。当該記事は以下の通り。--『米軍精鋭部隊パラシュート降下 がれきの空港を復旧』2011.3.27 01:33 「日本側はお手上げだった。だからノウハウを持ったわれわれが最初に復旧を手がけることにした」 米空軍のブッカー大尉は24日付米軍準機関紙「星条旗新聞」でこう語った。大尉が所属する嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)の第320特殊戦術飛行中隊は16日、パラシュートで空挺隊員と装甲車ハンビーを宮城県松島町上空付近から空中投下した。 目標は仙台空港。津波によって泥とがれきに埋もれて復旧のめどが全く立っていなかった。同中隊が空から降下したのは空港にいち早く陸路で入り、再開作業を始めるためだ。夜間や悪天候をついてひそかに敵の背後にパラシュート降下するのを得意とし、アフガニスタン戦争も経験した精鋭部隊の本領発揮だった。 原子力空母ロナルド・レーガンも救援活動のため三陸沖に展開中だ。だが、いかに空母といえども大型輸送機は離着陸できない。物資の大量輸送を可能にする空港の重要性を熟知した上での判断があった。 空港で米軍は自衛隊員らとともにがれきの撤去にとりかかり、3時間で大型輸送機C130が着陸できる長さ1500メートルの滑走路が完成。20日には、C130の3倍の積載量を誇る米空軍の大型輸送機C17が約40トンの人道支援物資を積んでアラスカから到着した。http://sankei.jp.msn.com/world/news/110327/amr11032701340000-n1.htm 米国防総省は現在、放射能漏れ事故を起こした福島第1原発の半径50カイリ(約93キロ)圏内への艦船の接近を原則として禁じている。 放射能汚染を回避しながら、戦地同様の思い切った作戦を展開する米軍。原発事故では、放射能被害管理の専門部隊450人の派遣準備に入った。原子炉を冷却する真水を積んだ米軍2隻目のバージ(はしけ)船も26日午後、米軍横須賀基地を出港した。 米政府は持てる能力を日本側にフルに提供する姿勢を見せている。それを後押ししているのは、最高司令官のオバマ大統領だ。 対応は素早かった。 地震発生から5時間20分後の11日早朝には、「日米の友情と同盟は揺るぎない」との声明を発表。昼の記者会見では「日本には個人的なつながりを深く感じており、悲痛な思いだ」と心情を吐露し、その後も8回にわたり日本の災害に言及し、日本を励ました。 世界各国で突出した米国の日本支援は、むろん人道的な側面だけではない。東アジア地域で、自由と民主主義という共通の価値観を持つ日本の復活が、地域の平和と安定に不可欠との認識がある。オバマ大統領が震災後、何度も日米同盟を強調するのはその証左だ。http://sankei.jp.msn.com/world/news/110327/amr11032701340000-n2.htm 米軍と自衛隊が一体となった救援活動を「有事で日米が同盟力をいかに発揮するのか、国際社会が注視している」(陸自幹部)のも事実だ。日本が米国の同盟国として汗を流した実績も米国を突き動かしている。 アフガン戦争ではインド洋で補給活動をし、イラク戦争では、どの国よりも早く「支持」を表明し、自衛隊をイラクに派遣。このとき、小泉純一郎首相(当時)はくしくも「有事に頼れるのは米国だけだから支持する」と語っている。 元国防次官補のジョセフ・ナイ米ハーバード大特別功労教授は「友人である同盟国日本への心配と、悲劇から立ち上がる日本人の力をたたえる気持ちから米国は支援している」と語った。(ワシントン 佐々木類)http://sankei.jp.msn.com/world/news/110327/amr11032701340000-n3.htm--ところが、確かに調べてみると、いろいろとおかしな点が出て来ました。私もエントリでは仙台空港に降下と書きましたけど、この記事では目標は仙台空港であっても、投下したのは松島町上空となっていること。双方の位置関係を考えたら、松島町上空からパラシュート降下して仙台空港に着地するのはまず不可能。ということは、この部隊は松島町に降りて、陸路で仙台空港に向かったということになります。ところが、このパラシュート降下したという3月16日には、既に松島基地は滑走路が使えるようになっていて、米軍の輸送機が着陸しているんですよね。--『空自松島基地の滑走路復旧 救援物資の輸送拠点に』2011年3月16日21時49分 宮城県東松島市の沿岸部にあり、津波の被害を受けた航空自衛隊松島基地に16日、地震後初めて輸送機が着陸した。津波に流された倒木や泥で覆われて滑走路が使えなかったが、15日に整備が完了。「これからは、ばんばん物資を運べる」(航空自衛隊幹部)。救援活動の進展が期待される。 松島基地には、2700メートルと1500メートルの2本の滑走路があり、被災地に近い輸送拠点として復旧が急がれていた。16日、雪の降る悪天候の中、まず米軍の輸送機C130が大量の水を積んで到着。陸上自衛隊のトラック5台に積み込み、宮城県気仙沼市の病院や岩手県陸前高田市の避難所などに向かった。 天候が回復次第、航空自衛隊の輸送機も、食料や医薬品の空輸を本格化させる予定だ。これまで救援物資は陸路やヘリで運んでいた。輸送機による空輸が可能になることで、運べる物の種類も量も大幅に広がるという。(略)http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103160333.html--輸送機が着陸できているところに、何でパラシュート降下なんてする必要があるんでしょ。で、産経の記事にあった「星条旗新聞」にどう書かれているのか、見てみました。--Capt. Joseph Booker, of the 320th Special Tactics Squadron out of Kadena Air Base on Okinawa, was among the first team of Air Force special forces that arrived at the airport March 16 in Humvees from a nearby airdrop in Matsushima.“The Japanese had actually written this airport off,” Booker said. “There were cars scattered everywhere just like the satellite imagery indicated.”http://www.stripes.com/marines-help-clear-out-sendai-airport-after-tsunami-1.138774--Airdropは確かに空中投下という意味ですけど、dropには荷や人を下ろす場所という意味がありますから、これは、空輸してきた荷物を松島で下ろしたと読むのが自然でしょうね。それにして、産経はこのブッカー大尉が「日本側はお手上げだった。だからノウハウを持ったわれわれが最初に復旧を手がけることにした」と語ったと言っていますけど、“The Japanese had actually written this airport off,” Booker said. “There were cars scattered everywhere just like the satellite imagery indicated.”この文のどこに、ノウハウをもったわれわれがなんて意味があるんでしょう。write offも、「お手上げ」というよりも「(意図的に)除外していた」といったニュアンスではないでしょうか。私が訳すなら「日本側は仙台空港を復旧対象から除外していた。衛星写真で示されていた通り、車がそこら中に散乱していた。」といったところでしょうね。産経の記事はどうみてもブッカー大尉の発言をねじ曲げているというより「捏造」しています。ちなみに、松島基地への移動について、米空軍のサイトでは、--『Special-ops Airmen open strategic runways for relief operations』Posted 3/16/2011(略)Airmen from the group, headquartered at Kadena Air Base, Japan, departed here in the early morning March 16 on a 17th Special Operations Squadron MC-130P Combat Shadow to survey and reopen the airfields. About 40 minutes later, the highly-trained aircrew was able to land the special operations aircraft at Matsushima Air Base even though the air traffic control was not up and running.(略)http://www.af.mil/news/story.asp?id=123247144--このように書いていますから、3月16日に着陸したというのが正解ですね。というわけで、「パラシュート降下」は産経の流したデマ。前エントリで、私はそれに鵜呑みにしてしまいました、ということでした。