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白山菊理姫

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2005.08.05
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カテゴリ:米外交史
カストロとの出会い4
 ライフルを取り上げようとしている自分に対して、この男はどう反応するだろうか。いきなり怒り出し、ライフルを発射するのではないか。あるいは逆上して、部下に命じて船を乗っ取ろうとするかもしれない。カストロは、ライフルを持っている自分の手に視線を落とした。間髪いれずにロレンツは、不測の事態を予測しながら、言葉を続けた。

「ドイツはキューバと友好的な関係にあります。ライフルは没収します。そうでなければ、乗船は認められません」

 一瞬、沈黙が走ったような気がした。しかし次の瞬間には、カストロは顔に笑みを浮かべながら、降伏した兵士のようにライフルをロレンツに手渡した。その際、カストロの手とロレンツの手が初めて触れ合った。この光景を見ていた船の上の乗客から拍手が沸き起こった。ロレンツとカストロはそのまま階段を登り、船に乗り込んだ。

 カストロはクマのようにひげを伸ばしていたが、精悍な顔立ちをしていた。キューバ軍の軍服と制帽をかぶり、一見恐そうな面持ちだったが、目は澄んで優しそうだった。うつむいたときはちょっと悲しげな顔を見せた。

 ロレンツとカストロの後から、25名の兵士もひとりずつ乗船してきた。ロレンツは彼らにも声を張り上げた。「さあ、腰の銃もはずして、全員武器をこの床の上においてちょうだい!」
 
 兵士の中には不平を言うものも現われたが、カストロが武器を置くよう命じると、みなそれに従った。ロレンツはちゃんと保管して、後で必ず返すことをカストロに約束した。

 カストロは船長にしきりに会いたがったが、ロレンツは午後3時までは自分が船長代理であるとして、自分が船内を案内すると言い張った。実はロレンツは何よりも、カストロの目やその立ち居振る舞いに惹かれ始めていた。彼の射抜くような目や微笑、肉体的魅力を目の前にして、ロレンツは感情が高ぶり、どぎまぎした。

 当時のロレンツは、ボーイフレンドもおらず、キスをしたこともない初心な女の子であった。一方カストロは、葉巻の臭いを漂わせていた。それはロレンツの父の持つ大人の臭いでもあった。そして何よりも、キューバ人民による改革の情熱に燃えた三十三歳の若き革命家であるカストロは、冒険とロマンにあふれた大人の世界をロレンツの目の前に広げて見せてくれたのだ。

 ロレンツは、すっかりカストロに夢中になってしまった。カストロも、若くて快活で、少しお茶目なロレンツがすぐに気に入った。
(続く)





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最終更新日  2005.08.05 08:19:35
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