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テーマ:読書(8219)
カテゴリ:本日読了
〈DATA〉 インターブックス/リ・ジュアン 河崎みゆき訳 2021年9月27日初版第一刷発行 2022年1月11日二版第一刷発行 〈私的読書メーター〉〈中国西北部のカザフ人の土地に、どんな経緯か本書は伝えないが母と著者が遠く四川からやって来て小さな雑貨屋兼洋裁店を営んだのは20世紀末。純朴で約束を決して反故にしない遊牧民と強かで抜け目なく機知と人情に富む漢民族母。その両者の間にある芒洋と広がる草原、寒さの冬暑さの夏、吹き渡る風雨雪、生き物、子どもたち。著者は静かな目で日常の一コマを詩に謳いあげる。遊牧民も親子も暮らしは貧しいが、しかしそれは不幸ではない。それどころか見る心感じる心さえあれば、えも言われぬ天上の美、地上の温もりをその者に繰り広げてくれる。〉 この牧歌的な風景から23年。中国はとてつもなく繁栄し強大な国家となった一方で、その影の部分がようやく認知され始めている。新疆ウイグル自治区は昨年末英国議会でジェノサイド認定がなされ、つい先日ウィグル人に対する暴虐の警察ファイルが明るみになった。 もたもとはウィグル、チュルク=トルコ系の遊牧民が古代と変わらない暮らしを送る土地だったことが本には敬愛を持って描かれている。当時は漢民族といえばこの親子くらいだったものが、このエッセイの後ろの方ではポツポツと増えてきた様子見える。 現在をググればウィグル族と漢民族がほぼ45%で拮抗している。僅か20年で二軒に一軒が漢民族の土地となった。遊牧民カザフ人は本で見る限り四六時中酒を飲んでいる。著者一家の叔父さんが後ろの方に突然登場するが彼は働き者だ。なんか切ない。 政治も経済も実のところさっぱり理解できない私は、土地の上に武力で線引きして所有権を言い立てるのは、その価値観の者たち同士でうーんと小さなもう一つの地球でやってほしいと思ってしまう。 イスラム教で青い目で、できれば馬に乗って土地に束縛されない生き方への憧れを生来もつ部族が中国語で物事を考えるのは東海の小島の住人から見ても無理な印象を持つ。彼らにしてみたら、自由な大地が区画され定住を余儀なくされ言葉も思想も奪った集団が大挙して、先祖代々の場所に居着いてしまった、ということになる。 カザフ人の女の子との友情の居心地悪さも素直に、真剣に悩んだ著者のように、或いは凍てつくバスの中で著者を両脇から温めてくれた老夫婦のような、あらゆる思惑を度外視して純然たる人と人が出会える世界にならなくては、そんな解放区を強く願う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.06.03 06:35:41
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