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カテゴリ:読書日記
山梨からの帰路、甲府駅のホームで、ふと目にとまった本を買いました。
いつもより長い旅だからこそ、読みたい、読もうと思っていた本がトランクに沢山あったけれど、急に旅先で出逢った本を読みながら帰りたくなったからです。 動き始めた特急電車から見える風景は緑に溢れていて、いつもの新幹線だと速すぎて、すり抜けていってしまうような風景が、目にも心にも優しく流れて心が濾過されて澄んでいくような感覚を味わいました。 こんな環境と著者の宮下さんの瑞々しく繊細なタッチの清涼感のある文章がとてもマッチして、とても幸せな読書時間となりました。 今度映画化されるベストセラーの本だということですので、お読みになった方も多いかもしれませんね。 ピアノの調律師さんという職業をテーマとしたお話なのですが、調律のことは何にも分からない私でも、主人公の青年の大きな目標、憧れ、への迫り方、挑み方に逡巡する想いが、自分の日々の仕事にも変換できるような言葉で紡いであって、共振する瞬間が沢山ありました。 たとえばこんな箇所(134~135頁)。 「一歩一歩」の苦しさと愛しさが、すっと心に入ってきます。少し涙が出てしまう程に。 森に近道はない。自分の技術を磨きながら一歩ずつ進んでいくしかない。 だけど、ときおり願ってしまう。奇跡の耳が、奇跡の指が、僕に備わっていないか。 ある日突然それが開花しないか。思い描いたピアノの音をすぐさまこの手でつくり出すことができたら、どんなに素晴らしいだろう。目指す場所ははるか遠いあの森だ。そこへ一足飛びに行けたなら。 (中略) もしも調律の仕事が個人種目なら、飛び道具を使うことを考えてもいい。歩かずにタクシーで目的地を目指したってかまわない。そこで調律をすることだけが目的であるなら。 でも、調律師の仕事は、ひとりでは完成しない。そのピアノを弾く人がいて、初めて生きる。だから、徒歩でいくしかない。演奏する誰かの要望を聞くためには、ひと足でそこへ行ってはだめだのだ。直せないから。一歩ずつ、一足ずつ、確かめながら近づいていく。その道のりを大事に進むから、足跡が残る。いつか迷って戻ったときに、足跡が目印になる。どこまで遡ればいいのか、どこで間違えたのか、見当がつく。修正も効く。誰かのリクエストを入れて直すことだってできるんじゃないか。たくさん苦労して、どこでどう間違ったか全部自分の耳と身体で記憶して、それでも目指すほうへ向かっていくから、人の希望を聞き、叶えることができるのだと思う。 私も一歩一歩頑張っていこうと思いました。 お勧めです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.06.04 00:29:10
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