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弁護士YA日記

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http://hinodecho-law.jp/
日出町法律事務所
2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
2022.09.23
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カテゴリ:留学
伊藤啓太弁護士イリノイ通信Vol.4です。​Vol.1​、​Vol.2​、​Vol.3​の続きで、ひとまずの締めくくりです。
異文化を前にしても自我が揺るがないという意味では,年を取ってからの留学にも利点はある」という視点、よく分かります。自分のこれまでの人生全部が武器なんですよね。

伊藤さん、あと1年の留学生活、満喫されて下さい!


                  イリノイ便りVol.4
令和4年9月2日
           
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 客員研究員 伊 藤 啓 太
●研究生活
研究テーマとしては,前回ご報告した通り,現在自由権規約上の先住民族の権利について研究を進めています。内容としては,ほぼまとまり,あとは引用等の形式面のチェックになります。しかし,これにもそれなりに時間がかかりそうです。完成次第,弁護団の皆様にも目を通していだだければと考えています。また英訳したうえでイリノイ大学の関係者の方々にお見せするつもりです。
 
●大学生活
・IEI
5月に春学期が終え,大学は夏休みに入ったのですが,その夏休み中にイリノイ大学には,秋学期からアメリカ各地の大学で学ぶ外国人のための,IEI(Intensive English Institute)という大学の教育機関で英語のための講座が開かれます。夏学期には30~40人ほどの生徒が集まり,私も受講しました。最初の「I」に当たる「Intensive」というのは集中的という意味で,文字通り週4日のハードな講義でした。ただし私はフルタイムではなく,パートタイム学生として参加したため授業の数はフルタイムの生徒の半分でした。パートタイムにしてよかったです。フルタイムの生徒は本当に大変そうでした。

最初の講義の際にクラスメイトと顔合わせすると,多くの生徒が私よりかなり若く,またほぼネイティブと同様に英語を話すことができます。なぜこの人たちはここにいるのだろうと思いましたが,後に彼らは私とは対照的に会話は得意でも読み書きは苦手なことに気付きました。前回英会話という意味では日本の英語教育の質を嘆きましたが,読み書きの面ではやはり日本の教育は優れているのだと思います。

また,当初は私が他の生徒のように流暢に英語を話さないため,白い目で見られる場面が度々ありました。しかし,私もいい年ですので若い人たちからそんな目で見られても特に気になりません。語学や文化の吸収という意味では若いうちに海外に出た方がいいことは間違いありません。ただし,異文化を前にしても自我が揺るがないという意味では,年を取ってからの留学にも利点はあると感じました。もし,若い時分でしたら他人の視線を気にして落ち込んでいたと思います。

さらに,IEIのハイライトとして,各生徒が自分の専門分野について10~15分程度でプレゼンするという企画がありました。IEIには様々な分野を専門とする生徒が集まっていて,驚くほど多様なテーマでのスピーチがあり,刺激を受けました。

私は,「なぜ先住民族を研究するのか」というテーマで話しました。シリアスなテーマにもかかわらず終始穏やかな笑いに包まれる展開になりました。私の英語は通じなくても私の笑いは世界に通用するという確信をもつことができました。

なお,生徒の中にチリの先住民族マプーチェの生徒がいて,いかにして先祖の遺産をヨーロッパの美術館から取り戻すかという内容でプレゼンを行い,個人的に興味深く聞きました。また,返還請求の根拠として,日本が批准していないILO169号条約を当然のように挙げているのを見てうらやましく思いました。

IEIでは本来であれば出会えないであろう他分野の学生たちと出会うこともでき,また多くの講義を受けたので英語で授業への抵抗もなくなりました。行ってよかったです。卒業後にクラスメイトと行った旅行やお別れ会はいい思い出になりました。一方,英語に関しては私の苦手分野であるスピーキングは,少人数のクラスといえども英語を話す時間が足りない気がしましたので,現在はオンラインの英会話教室で毎日英語を話す時間を作っています。
    
・Law500
IEIの話が長くなりましたがIEIに引き続いてロースクールに戻って,Law500という講義を受けました。500というのは講座の番号です。講座の内容としては,秋学期からの講義の入門編として,アメリカで法曹として働くために必要な判例・文献等のリーガルリサーチや,顧客との面談や説明文書等の顧客対応を学ぶものになっています。この講義は,本来は去年受ける予定でしたが,渡航が遅れ受講できなかったため,大学の許可を得て今年受講することにしました。

授業は午前中の100人程度の全生徒が集まって講堂で行う大クラスと,午後からの各生徒が10のグループに分かれて小さい教室で行う小クラスに分かれます。大クラスはロースクールの教授による講義ですが,小クラスはJSD(日本でいう博士課程)の学生が講義を担当します。

私の小クラスの担当は去年から一緒にシカゴ旅行したりしてよく知っている博士課程の学生だったので,事前に,自分はアメリカでの法曹資格を取るつもりはないので,お手柔らかにお願いしますと断っていました。にもかかわらず,いざ講義が始まると彼女は私を他の学生同様に厳しく指導し始めました。一週間も経たないうちに,追い詰められて音を上げていたところ,ちょうどその時新型コロナウイルスに感染し,講義からの離脱を余儀なくされました。幸いコロナは軽症だったことから,皮肉にもコロナに感染した結果,心身共に解放される結果となりました。しかし,LAW500の講義は,日本との判例の読み方の違いや,オンラインでの文献調査など,非常に興味深くまた実践的な内容でしたので,中途での離脱は返す返すも残念です。

また,コロナ感染で急に時間ができたため,以前メーリス上でご紹介があり読みたいと思っていた上西靖治の「十勝平野」を電子書籍で読むことにしました。江戸時代からの十勝太コタンの風景が丹念に描かれ,またかなりの長編でしたが一つ一つの文章が非常に洗練され読み応えがありました。主題としては,十勝太またその末裔の札幌に出たアイヌが,和人の迫害に苦しみ,また和人に迎合するアイヌ自身にも悩まされ,さらに現代社会の機械的な平等の間で,その出自を伝え,また権利を率直に主張することへの歯がゆさ,もどかしさのようなものを感じ取りました。多くの点で今日の現実の状況と通じる点があるように思いました。


●日常生活
・シカゴ旅行
前回シカゴ旅行のご報告をした際,アメリカン・インディアンの展示が充実するシカゴ・フィールド美術館でインディアン関係の展示だけが閉鎖になっていた旨お伝えしました。インターネットで調べると5月下旬から展示が再開とのことだったので,リベンジするべく,5月末に同じく日弁連から派遣されたイリノイ大学の客員研究員とそのご家族と一緒に再びシカゴを訪問しました。

午前中はシカゴの水族館に行き,午後になりフィールド博物館に赴き,今度こそはで全米各地のアメリカン・インディアンの展示を見ることができました。100以上の部族の遺産を集めた膨大なコレクションが目の前に広がりました。一つ一つ時間の許す限り観察しました。日常生活に用いる籠などの家具も大胆かつカラフルなデザインが施されているものが多く,とても気に入りました。とりわけ注目したのは漁具でした。銛や針など各部族が多数の漁具が展示され,どのように使うのかわからないものもありました。

漁船に関しては,いくつかの部族がアイヌの丸木舟によく似た形の船で漁をしていることがわかりました。また出口に近づいたところで,巨大なトーテムポール群に圧倒されながら,先住民族の世界は,法律に限ればマイナーかもしれないが,全体を見渡そうとすれば自分が恐ろしく巨大な森の中に足を踏み入れたことに気付かされました。

展示を後にすると,博物館中央のホールで展示再開を記念したモンタナ州などに住むアメリカン・インディアンのブラックフィート族のダンスが行われていました。どのような意味があるダンスなのかは最初のアナウンスを聞き逃してしまったためわかりませんでした。ダンスはシンプルなリズムの音楽・振り付けで,踊り手が次々に輪を作るように増えていきます。それとともにダンスの音量も上がり,踊り手の一体となって,昂揚感を生み出します。単純さの中にも力強さを感じました。もっとも,ダンスもどこで踊るのかが大事であり,少なくとも博物館は本来の場所ではありません。踊りも含めた文化をさらに勉強した上で,全米各地のインディアンの保留地を訪問したいと改めて感じました。
   
●カストロ・フエルタ判決
7月に連邦最高裁がインディアンに法関する重要判決を下しました。判旨としては,オクラホマ州は,連邦政府と共に,非インディアンであるカストロ・フエルタ氏が保留地内でインディアンに対して行った犯罪について訴追する管轄権を有するというものです。

一昨年に弁護団メーリス上でご紹介のあった連邦最高裁マクガート判決は,本件同様のオクラホマ州の一定区域について19世紀の条約に基づき,インディアン・カントリーであることを認定し,その中でインディアンが起訴された刑事事件については,連邦法により州には管轄権がないとするものでした。

一方,本件は,同区域がインディアンの土地であることを変更するものではないものの,マクガート判決とは別の連邦法に準拠し,その解釈として州の管轄権を否定されないとしました。マクガート事件はインディアンが起訴された事件であるため,非インディアンの起訴が問題となっている本件とは,直接的には抵触するものではないものの,実質的にマクガート判決の射程を限定するものとして,また今後の実務への大きな影響を与える判決とのことでした。

私は公表された判決文及びを読むとともに,ユーチューブに投稿されていた判決に関する解説・論評動画を見ました。
判決の多数決としては,マクガートでは裁判官9人のうちリベラル派と言われる判事4人に保守派のゴーサッチ裁判官が加わった5対4でしたが,本件ではギンズバーグ裁判官からバレット裁判官への交代に伴いさらに保守派が増えたたため,形成が逆転することになりました。法廷意見はマクガートでは反対意見に与したカバノー裁判官が書き,反対意見はマクガートでは法廷意見を執筆したゴーサッチ裁判官が書いています。

刑事管轄に関する基本的な対立点としては,法廷意見はインディアン・カントリーでの刑事事件の場合,連邦法で否定されない限り,州の管轄が存在するとするのに対し,反対意見は当該場合に連邦法で否定されない限り,部族の排他的管轄が存在するというものです。そして,法廷意見は連邦法が州の管轄を否定していないから州の管轄があり,反対意見は連邦法によっても部族の排他的管轄が存在するから州の管轄はないとしています。判示では多数のインディアン法に関する立法・判例が参照され,インディアン法の複雑さ,また奥の深さを改めて感じました。

動画では,パネリストとして,インディアン法が専門のカルフォルニア大学ロサンゼルス校のゴールドバーグ教授(本件の反対意見でその著作が援用されていました)やチェロキー族の代理人弁護士が参加していました。教授は,また,インディアンの問題に州が介入するのは許せないと述べた上で,法廷意見は,その依拠した連邦法は,その立法過程において,州によるインディアン・カントリーでの刑事管轄の議論はなされていないとしましたが,実際には多く議論がなされ,その中に州の管轄を認めるような議論は存在しないとして,法廷意見は根拠がないことを指摘していました。一方,チェロキー族の代理人弁護士は,弁護士の実務としては,マクガート判決後の部族裁判所への起訴件数が急増等により生じた深刻な人的・物的資源の不足への対応への追われていた旨述べていました。そして,その資源を持っているのは結局は州なので,州と様々な協定を結び,何とか法の執行を確保しようとしているのが現状であるとの説明でした。

マクガート判決は,画期的でまた理論的にも優れているとしても,実務としては大きな混乱を生じさせたようでした。とはいえ,実務の混乱を解消するために理念を変えるのは本末転倒であり,本件のようにインディアンの土地への州の権限を認めていくことが正しい方向とは思えません。


●おわりに
渡米から早くも1年が経過しました。最近滞在期間を1年延長したばかりにもかかわらず,すでにあと1年間しかないのかという気持ちです。また,日本を離れて久しくなり,帰国することに恐怖心が芽生え始めているのも事実です。しかし,そもそもアメリカで先住民族について学んでいるのは日本に入るアイヌの権利のためですし,また経済的な問題もありますので,1年後には帰国する覚悟です。残り1年また様々なトラブルが予想されますが,できるだけ受け流して無事に留学生活を終えられるようがんばります。最後までお読みいただきありがとうございました。
以上





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Last updated  2022.09.27 05:54:27



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