本のタイトル・作者
理由のない場所 [ イーユン・リー ]
WHERE REASONS END
by Yiyun LI:
本の目次・あらすじ
16歳で、私の息子は自ら死を選んだ。
だから私は、この場所を作った。
彼と2人でいるために、彼をここに留めておくために、彼ともっと話すために。
引用
お母さん、とニコライが言った。
驚いた。彼がこう呼ぶのは、かまってもらえないときだけだった。でも私はここにいて、ひたすら気遣っていた。いまこの子にしてやれることは、それしかないから。あなたにそう呼ばれるのがどれだけ好きか、話したことなかったね、と私は言った。
感想
2020年読書:117冊目
おすすめ度:★★★
作家である筆者の実体験に基づく小説。
実体験と思わせる内容があり、そうでないことを祈りながら読んで、あとがきで「ああ、やっぱり…」と胸が苦しくなった。
息子を亡くした母が、息子と対話する物語を書く。
話しているのは自分だ。
応えているのは自分だ。
でも、そこに彼はいる。
独白、引用、言葉遊び、応酬、口答え、語源、会話。
思い出が溢れて満たす。
どこへも行けない物語。
読んでいる間、頭に浮かんでいたのは、白い部屋。
*
扉はない。誰も入って来られない。
がらんどうのそこに、椅子を1つ置く。
息子のお気に入りの椅子。
傷だらけのダイニングチェア?
犬が掘って破れたソファー?
誰も座らない椅子を、1つ。
大きな窓の外は、ほの明るい。
外は絶え間なく雨が降っている。
サアーーーーーー、と音がする。
ホワイトノイズ。
永遠にやまない雨。
お母さん、と息子が呼ぶ。
白い部屋で、それは反響する。
お母さん。
その声が確かに聞こえる。
完璧を求めていた小さな私の坊や。
生まれながらの詩人。
お菓子作りの天才。
どうして、と繰り返す。
この小さな部屋に、私はあなたを留めておくことしか出来ないの。
入るつもりのなかった、出口のない部屋。
*
その部屋の中で語られる物語を、頭の中の会話を、ずっと聞いているような。
そんな話だった。
「理由のない場所」というよりは、「すべての理由が終わる場所(WHERE REASONS END)」。
狂っていると言われても良い。
悲しみを受け止められない?当然だ。
小さな部屋は、「私」と「息子」だけのためにある。
すべての理由は意味を持たない。
ただ、息子と一緒にいたい。
『メテオ・メトセラ』のシャレムを思い出した。
私はあなたを抱いて百年でも千年でも泣いていたかったの。
ニコライはきっと、ただの石ころを、ぴかぴかに磨き上げて宝石みたいにしてしまう。
そして一つの傷も許せないのだ。
ボタンがとれて、新品でなくなったコートみたいに。
彼に見えていた世界を想う。
けれど一方で、母になった私は、親として子供に生きていてほしいと願う。
それ以上に子供に望むことがあるだろうか?
前に読んだ児童書に、息子に母がはじめて胎動を感じたときのことを
「あなたが私の心臓だと思ったの」
と話すシーンがあった。
だとしたら、子供を亡くすことは心臓が止まるのに等しい。
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