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土井中照の日々これ好物(子規・漱石と食べものとモノ)

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2018.08.19
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カテゴリ:夏目漱石

  
 漱石は、自分の声を蓄音機に吹き込んだことがあります。明治38(1905)年10月27日、漱石は東京大学分科大学でテンペストの講義の後、エジソンが発明した円筒型のろう管レコードに、語りを吹き込んだようです。この蓄音機は、当時の東大英文科を中退して、故郷・広島に帰って稼業を継いでいた加計正文(鈴木三重吉の要人でもある)が、漱石に許可を得て録音したといいます。
 その蓄音機は今でも桐箱に入れて残されていて、その箱の裏には「この蓄音機は夏目漱石先生に談話を吹き込んで頂くため、銀座十字屋楽器店で購めたものである。明治三十八年十月二十七日午後、中川芳太郎氏に伴われて本郷千駄木町の先生宅を訪れ、玄関の間の奥正面八畳客間の真中の畳へじかに蓄音機を置いて先生に吹き込んで貰った。先生は初め一寸躊躇されたが、私が先に明治三十八年十月二十七日と吹き込むと、『これは不折(洋画家)に話す積もりで話せばよいな』と右肘で頬杖をつきながら吹き込まれた。不折は当時耳が相当遠く難聴であった」と書かれているそうです。
 肝心の漱石の声は、残念ながら星霜のときを経て、カビのために再生することができなかったようです。
 

 
 漱石は小説に「蓄音機」を登場させていますが、『それから』『彼岸過迄』には雑踏の喧騒の原因の一つ、『野分』では、同じ内容を繰り返す教師の比喩となっています。
 
 新見付へ来ると、向うから来たり、此方から行ったりする電車が苦になり出したので、堀を横切って、招魂社の横から番町へ出た。そこをぐるぐる回って歩いているうちに、かく目的なしに歩いている事が、不意に馬鹿らしく思われた。目的があって歩くものは賤民だと、彼は平生から信じていたのであるけれども、この場合に限って、その賤民の方が偉いような気がした。全たく、又アンニュイに襲われたと悟って、帰りだした。神楽坂へかかると、ある商店で大きな蓄音器を吹かしていた。その音が甚しく金属性の刺激を帯びていて、大いに代助の頭に応えた。(それから 11)
 
 田口から知らせて来た特徴のうちで、本当にその人の身を離れないものは、眉と眉の間の黒子だけであるが、この日の短かい昨今の、四時とか五時とかいう薄暗い光線の下で、乗降に忙がしい多数の客のうちから、指定された局部の一点を目標に、これだと思う男を過ちなく見つけ出そうとするのは容易のことではない。ことに四時と五時の間といえば、ちょうど役所の退ける刻限なので、丸の内からただ一筋の電車を利用して、神田橋を出る役人の数だけでも大したものである。それにほかと違って停留所が小川町だから、年の暮に間もない左右の見世先に、幕だの楽隊だの、蓄音機だのを飾るやら具えるやらして、電灯以外の景気を点けて、不時の客を呼び寄せる混雑も勘定に入れなければなるまい。(彼岸過迄 22)
 
 次に渡ったのは九州である。九州を中断してその北部から工業を除けば九州は白紙となる。炭礦の煙りを浴びて、黒い呼吸をせぬ者は人間の資格はない。垢光りのする背広の上へ蒼い顔を出して、世の中がこうの、社会がああの、未来の国民がなんのかのと白銅一個にさえ換算の出来ぬ不生産的な言説を弄するものに存在の権利のあろうはずがない。権利のないものに存在を許すのは実業家の御慈悲である。無駄口を叩く学者や、蓄音機の代理をする教師が露命をつなぐ月々幾片の紙幣は、どこから湧いてくる。手の掌をぽんと叩けば、自ずから降る幾億の富の、塵の塵の末を舐さして、生かして置くのが学者である、文士である、さては教師である。(野分 1)





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最終更新日  2018.08.19 00:10:10
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