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2007年02月21日
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カテゴリ:外国映画 ま行
10分しか記憶がもたないという疾患は去年ヒットした『博士の愛した数式』にも出てきたものなので、今見ると違和感ないですね。

10分しか記憶のもたない男が、妻を殺した犯人に復讐するために、ポラロイド写真やメモ、自分の体に刻んだタトゥーだけを頼りに犯人を探し当てようとする物語である。果たして、彼の記憶は、写真は、メモは、タトゥーに書かれたことは、そして彼の周りの人間たちの言うことは、どこまで正しいのだろうか。

何を信じ、何を頼りに、人は生きていけばいいのだろう。

アメリカではすごく受けた映画らしいけど、日本では賛否両論。良かったという感想もあるけど、大して良くなかったという感想や、わけわかんなかったという感想もある。

ごもっともである。

この映画は結末から発端へと物語が10分ごとに遡っていく。主人公の「10分しか記憶が持たない男」と同じ感覚を味わうための構成になっていて、その構成ゆえにかなりわかりにくいけれど、大体の感じはわかる。一応10分しか記憶が持たない不安さと不安定さと主人公の悲劇やつらさはもちろんわかる。しかし、それ以上には感動しないのはごもっともである。なぜなら私たちは日本人だからだ。というのもこの物語で監督が描こうとした独特の価値観というのは日本人であるわれわれにはすでにとっくの昔に常識になっている、この世界で生きることの無常観、だからだ。

つまりは有名な中国のエピソードである『胡蝶の夢』の世界観、価値観を描いてあるからだ。
自分が夢中で生きているこの人生、この世界は、実は蝶がみた一瞬の夢にしか過ぎないのではないか。この考え方や価値観はすでに中国やインドで語られ、日本にも伝えられ、日本人なら二十歳になる前に学校の授業であるいはそれ以外のどこかで。教わるか、学ぶか、ふれるかしているはずだからだ。

目の前にあるものや人や人生は手に触れることも出来るし、怪我をすれば痛いし。ものを食べればうまい。確かに確実にあるはずのもの。それでも直、どこか不確かなユメで。目をつぶれば、次の瞬間には消えてしまう幻なのではないのか。たとえ目に見えてはいても本当は存在しない幻ではないのか。

この感覚はアジアの人間にとってはそれほど違和感のないものだけれど、物質主義のアメリカ社会、西洋文明の人たちにそれを理解させることが出来るのだろうか。

もし全くこの価値観が向こうにないとすれば、この映画で監督が描こうとした無常観、今生きている現実が幻かもしれないという感覚を、この映画で始めてみたとしたら、理解したとしたら、それは相当のショックであり、彼らにとっては新しい視点、新しい地平なのではないだろうか。

西洋の人たちでも、ある程度学というか、知識というかのある人たちなら、東洋の価値観や場合によっては胡蝶の夢の話や、わび、さび、仏教の無常観というものを知識として知っているかもしれない。

しかし、それを本当に理解しているかといえば疑問であって、この映画の中で記憶をもたない主人公レナートが、メモや写真や自分にかかわる人々の言動やアドバイスすらあてに出来ない状況の中で、何を信じればいいのかわからない中で、この世界自体が果たして本当に存在しているのかどうかすら問い直すしかないという状況に至って、車を運転しながら目をつむり、また開き、世界の存在の是非を己自身に問うていくそのレナートに、共感して初めて理解しうる感覚、価値観、なのではないのだろうか。

妻を殺され、その犯人を捜して、復讐のためだけの生を送るレナートの悲劇。10分しか記憶が続かないのをいい事にレナートをだましまくる、自称刑事やバーの女。なんとも無情な登場人物たち。

記憶の不確かさ。記録の不確かさ。他人の言葉の不確かさ。人生の不確かさ。それらがいやというほど描かれる。

正編のラストで明かされるサプライズもまた、DVDに入っている「正常な時間軸で見直すことの出来るバージョン」をみれば、明らかにうそなのがわかる。だって、記憶が10分ももたない男が事故の後に自分で作り上げた架空の物語をあんなに覚えていられるわけがないじゃないか。

ちなみにこの前向性健忘という疾患は全く記憶が出来ないわけではないようだ。たぶん普通に記憶する能力の100分の1くらいにしか記憶できなくなっている病気なんだと思う。病気っていうより脳の記憶の機能が激へりしてるってことでしょう。さびた自転車みたいな感じ。10回こいでやっと10センチ進むってイメージですかね。だから目的地に着くまでちょっくりじゃないのね。大概の人は途中でやめると思うけど。すごいよね。レナートは。


メメント@映画生活

               


             でも人を殺しちゃいかんよ。













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最終更新日  2007年02月21日 15時35分25秒
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