炎の月の子守唄 第1話
表紙素材は、このはな様からお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 いつも、同じ夢を見る。 焦土と化し、ナパームによって焼かれたジャングルの中を、刀を振るい、次々と敵味方関係なく斬り伏せる“誰か”の姿。 闇に揺れる、禍々しい金の髪。 そして、血の如く紅い瞳。 熱い。 全身が、燃えるように熱い。「あっつ!」 忙しなく鳴く蝉達の声を目覚まし時計代わりにして、高原火月は目覚めた。「おはよう、火月。」「おはよう!」 トースターの中から焼き立てのトーストを一枚摘まんでそれを口に咥えると、火月はそのまま家から出て行った。「行って来ます!」「火月、頑張ってね~!」 この日、火月が所属するラクロス部は、ライバル校と練習試合をする事になっていた。 ラクロスのスティックとユニフォーム類が入ったスポーツバッグを肩に担ぎ、火月が学校への近道となる観光スポットを通り抜けようとした時、チェロの美しい音色が聞こえて来た。 何だろうと火月がチェロの音色が聞こえる方を見ると、そこにはチェロを奏でる一人の男性の姿があった。 黒く、美しく艶やかな髪をポニーテールにし、黒衣に身を包んだ彼の、碧みがかった黒い切れ長の瞳と、火月は目が合った。 その時、火月の脳裏に、ある映像が浮かんだ。 何処か、中世ヨーロッパを思わせるかのような、美しい塔がある建物。 誰かがその塔の中へ入り、螺旋階段を上へ上へと登っていった。 最上階に辿り着き、その奥にある扉の前に立った。 その扉には、南京錠がかけられていた。 誰かの手が、美しい鍵を取り出し、それを錠前にさし込んで―「駄目っ!」 思わずそう叫んで手を伸ばそうとした火月を、周囲の人々がジロジロと見ていた。 火月は恥ずかしさの余り、顔を赤くしながらその場を後にした。 そんな彼女の背中を、男はじっと消えるまで見つめていた。 朝のハプニングはあったものの、火月達はラクロスの試合で勝った。「火月、またね~」「バイバイ~」 放課後、火月は校門の前で友人達と別れた後帰宅すると、丁度両親が経営する店が混雑していた。「あ、火月、丁度いい時に帰って来たわね!お店、手伝って!」「うん、わかった!」 混雑していた店が落ち着いたのは、午後11時位だった。「あれ、ない!」「どうしたの、火月?」「明日持って行くシューズ、学校に忘れちゃった!」「気を付けてね!」 火月が自転車で学校へと向かうと、そこは不気味な程静かだった。(夜の学校って、何か怖いな・・) そんな事を思いながら火月が校舎の中へ入ろうとした時、彼女は突然何者かに懐中電灯で顔を照らされ、悲鳴を上げた。「何だ、高原か?どうした、一体こんな時間に・・」「先生、実は・・きゃぁぁ~!」 火月は、体育教師・日高が何者かに襲われている所を見て、悲鳴を上げた。「な、なんなの!?」 日高を襲った化物と目が合った火月は、パニックになり化物に背を向けて走ろうとしたが、その時化物の目に何かが刺さった。「ちっ、遅かったか。」そう言いながら火月の前に現れたのは、昼間観光客達の前でチェロを弾いていた男だった。「えっ、あの・・」「行くぞ。」 男は火月を横抱きにすると、そのまま校舎の中へと入っていった。 化物が咆哮し、その衝撃波を受けた窓ガラスが粉々に砕け散り、その破片が深々と火月の右太腿に突き刺さった。「一体あの化物は・・」「あいつは翼手。人の生き血を啜る化物だ。」 そう言った男は、背負っていたチェロケースを下ろすと、中から一振りの日本刀を取り出した。「何、しているんですか・・?」 理科室へと男と共に逃げ込んだ火月は、フラスコ越しに彼が刀で己の掌を傷つけているのを見て、悲鳴を上げた。「飲め。」「嫌っ!」 火月が後ずさりすると、男は舌打ちし、彼女を己の方へと抱き寄せた。「ったく、世話が焼ける・・」 男はそう言った後、火月の唇を塞いだ。「う・・」 喉の中に何か温かいものが流れ込むような感覚がして、火月はそれを音を鳴らして飲み干した。 すると、脳裏に、幾つもの映像が、浮かんでは消えていった。 その中に、男と瓜二つの顔をした“男”が、微笑みながら自分に向かって手を差し伸べた。“火月・・”「火月、戦え。」 その手を、そっと火月は握った。「ソード。」 その口調は、まるで王が臣下に命じるかのような、厳かなものだった。 その直後、化物が理科室に乱入し、火月達に襲い掛かって来た。 しかし、化物の首を火月は躊躇いなく握っていた刀で刎ね飛ばした。 鮮血が雨のように火月に降り注いだ。『どうやら、“実験体”は処分されたようです。』「誰に?」 夜の国道を走るロールスロイスの中で、飴玉を舐めながらその男は気怠そうな口調でそう言うと、スマートフォンの画面越しに部下を睨んだ。『それは、わかりません・・』「ご報告、ご苦労様。」 男はそう言ってスマートフォンの画面に表示されている“通話終了ボタン”を押した。(全く、折角精魂込めて育てた実験体が呆気なく倒されるなんて、どんな大男が倒したんだか。いや、それとも倒したのは、美しく可憐な乙女かな?) その可憐な乙女―火月は化物の返り血を全身に浴び、気を失っていた。「お~い、火月、そこに居るのか?」 火月の義理の兄・琥龍が懐中電灯を片手に理科室へと入っていくと、そこには見知らぬ男が火月の上に覆い被さっていた。「てめぇ、何していやがるっ!」 男は琥龍を睨み、舌打ちすると、窓ガラスを破って闇の中へと消えていった。「おい、火月、しっかりしろ!」 琥龍はそう言いながら火月を揺さ振ると、彼女の隣に化物の首が転がっている事に気づいた。「うわぁ~!」 琥龍はそう叫ぶと、腰を抜かしてしまった。(まだ彼女は、完全に“覚醒(めざ)め”ていないか。)にほんブログ村二次小説ランキング